コラム

副都心線・東横線の直通運転、不安感中心の報道に対して一言

2013年02月27日(水)13時48分

(*関東ローカルの話題ですが、少々気になる問題ですのでお許し下さい)

 3月16日(土)の始発電車からいよいよ、東京メトロの副都心線と東急電鉄の東横線が直通運転を開始します。これによって、既に副都心線と直通運転を行なっていた東武東上線と西武新宿線の車両が、東横線に直通することになります。また、みなとみらい線の「元町・中華街」から東横線・副都心線経由で西武池袋線の「所沢、小手指、飯能」や、東武東上線の「川越市、森林公園」行きの電車が終日走ることになります。

 このニュースに関しては、直通運転の開始を直前に控えたここ数週間、移行に伴う不安に関する報道を何件か目にしています。不安というのは次の2点に集約されるようです。

 1つ目は、渋谷での東横線(現在は地上2階)から山手線(地上2階)、東京メトロ銀座線(地上3階)への乗り換えが、東横線が地下5階の副都心線の駅に「もぐる」ことで混乱が生じる、具体的には駅構内が人であふれる危険ということです。

 2つ目は、複雑な直通運転を行なっているために、西武池袋線や東武東上線のダイヤの乱れ(東京メトロ有楽町線も関係あります)が、副都心線を通じて東横線に波及する危険、そしてその場合に渋谷の地下駅が人であふれる危険があるという可能性です。

 この問題については、2008年の6月に副都心線が全通した際に、小竹向原駅での方面案内方法の不備と平面交差構造のためにダイヤの大幅な混乱が発生したことの記憶があるように思います。今回も相当に覚悟しておいた方がいいという、一種の警告の意味での報道ということでしょう。

 確かに注意したほうがいいのかもしれません。ですが、一連の「不安報道」では、そもそもこの「副都心線(計画時の名称は13号線)」が建設された理由、また今回の「副都心線・東横線直通運転」の目的という「大前提」が忘れられているように思います。

 また、関係する、東急電鉄、東京メトロ、西武鉄道、東武鉄道の4社の広報活動においても、この「大前提」はほとんどアピールされておらず「乗り換えなしで便利に横浜へ行こう」とか「秩父や川越へ行こう」といった「休日の観光ニーズ喚起」のものが多いのは問題だと思います。

 この「大前提」というのは非常にシンプルです。

「輸送力の限界に近い山手線の「池袋=渋谷間」の乗車人員を分散させること。そのために、渋谷駅での乗り換えを減らすこと。」

 これが核にあるコンセプトです。国(実際は鉄道・運輸機構)はこのために、巨費を投じて13号線こと副都心線を建設したのであり、この大前提が理解されて、利用者の利便性が向上するようにPR活動を行うべきなのです。いわゆる「混乱への不安」も、この前提が理解されれば解消するように思われます。

 具体的には「直通運転開始後の通勤・通学ルート」に関して、利用客に「どう変えるのが便利か?」をPRするのです。

 まず、直通後の東横線乗客からの「乗り換えルートの推奨」としては、

(1)都心、霞ヶ関、日比谷、東銀座方面・・・依然として日比谷線が便利。相互乗り入れによる直通は廃止されますが、中目黒では対面ホームで乗り換えが可能であり、しかも始発なので座れる確率が高いことをアピールすべきです。

(2)表参道、赤坂方面・・・明治神宮前で千代田線(乗り換えの距離は遠くありません)という乗り換えのチョイスをアピール。

(3)新宿、四谷、市ヶ谷、神保町方面・・・新宿三丁目で、東京メトロ丸ノ内線(西新宿駅もある)、都営新宿線に乗り換え。

 の3ルートの利便性を強くアピールすべきだと思います。ちなみに、渋谷での半蔵門線への乗り換えを考える人は多いと思いますが、半蔵門線=田園都市線の渋谷駅は現状でも乗降客が大変に多く、PRでは、その一部を千代田線乗り換えにシフトさせて、半蔵門線渋谷駅に人が殺到しないような工夫が必要でしょう。

 こうした「乗り換え推奨」によって、東横線の乗客が渋谷で山手線、銀座線、そして半蔵門線に流れる量を抑制するようにすべきです。また、上記の3つの「乗り換えルート」は、乗客の利便性という意味からもベストな選択だとアピールすべきです。

 それから、懸念される池袋以北の各線のダイヤの乱れが東横線に波及するという問題ですが、東急と東京メトロは「南からの列車は新宿三丁目折り返し」とすることで、仮に池袋以北でダイヤが乱れても、東横線から新宿三丁目まで、つまり上記の3つの乗換駅を含む区間の輸送量が大幅にダウンすることは避ける対応を考えているようです。発表された新ダイヤでは、ラッシュ時も昼間も、東横から入って新宿三丁目折り返しという列車が相当数組まれています。

 いずれにしても、ただ不安感を増大させるような報道ではなく、そもそも副都心線が建設されたコンセプトを理解して「最適解」へ誘導するような報道がされたほうがいいと思います。その点では、関係各社に関しても「直通で横浜観光、川越観光」などというPRであるとか「さよなら東横線渋谷駅」などというセンチメンタリズムだけでなく、「推奨乗り換えルート」の告知にもっと力を入れるべきと考えます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インドGDP、7─9月期は前年同期比8.2%増 予

ワールド

今年の台湾GDP、15年ぶりの高成長に AI需要急

ビジネス

伊第3四半期GDP改定値、0.1%増に上方修正 輸

ビジネス

独失業者数、11月は前月比1000人増 予想下回る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story