Picture Power

企業人目指す黒人女性の不安

THE LIVES OF THE INVISIBLE

Photographs by ENDIA BEAL

企業人目指す黒人女性の不安

THE LIVES OF THE INVISIBLE

Photographs by ENDIA BEAL

<ジャスミン(21)>「アメリカの企業はモノクロの色合いで男性中心の社会になっている。女性の気配りができて合理的で、巧みな感覚があれば企業のためになるだろう」

 ノースカロライナ州を拠点に活動する、アフリカ系アメリカ人アーティストのエンディア・ビール。ウィンストン・セーラム州立大学の准教授でもある彼女は写真やビデオを使って、人種問題やジェンダー意識の今を表現している。

 最新の写真シリーズ「私はあなたが求めている人ですか?」は、社会へ巣立つ前のアフリカ系アメリカ人の女子大学生たちを被写体にしている。撮影場所は彼女たちの自宅。背景には、ビール自身がかつて勤めていたエール大学のIT部署の廊下の写真をつるした。

 学生たちには就職の面接で着たいと思う服を着て、面接に臨むふりをしてもらった。カメラが捉えたのは、企業社会でマイノリティーとなる黒人女性たちの不安や将来の不確かさだ。

 ビールは白人男性の多い大学の職場にいたとき、とても居心地が悪かったという。アフロヘアで目立つ風貌の自分は浮いていて、「見せ物のように感じることも多かった」と彼女は言う。

 黒人女性が企業社会になじむには、自己表現を抑えたほうがいいと考えられている。ビールも面接には髪をストレートにし、青いブラウスにスラックス、小ぶりのイヤリングという格好で出掛けていった。一方、今回の写真に登場する学生たちは体にぴったりしたワンピース、明るい色のセパレーツ、アフロや編み込みヘアなど思い思いの華やかさにあふれている。つまらないグレーのスーツとは無縁だ。

 ビールが芸術に目覚めたのは、高校生のとき。初恋の人が殺人の犠牲になり、その悲しみと折り合いをつける手段がアートだった。声にならない感情をカンバスに表現した。

 大学時代にイタリアで勉強し、世界的にマイノリティーの経験が語られていないことに気付いたという。「同じように、現代のアート界でも少数派の存在があまり表現されていない。しかも企業で働く黒人女性について語られることはめったにない」と、彼女は言う。

 ビールが目指すのは、存在の見えない人々の生き方を記録すること。主流から外れた彼らを骨抜きにすることで平常を保とうとする社会によって、その声はかき消されている。

「多くの人にとって異質な場所から来たからといって、輝くことができないわけではない。私は自分の作品の力で、そのことを示したい」


Photographs by ENDIA BEAL

<本誌2015年12月8日号掲載>


【お知らせ】

『TEN YEARS OF PICTURE POWER 写真の力』

PPbook.jpg本誌に連載中の写真で世界を伝える「Picture Power」が、お陰様で連載10年を迎え1冊の本になりました。厳選した傑作25作品と、10年間に掲載した全482本の記録です。

スタンリー・グリーン/ ゲイリー・ナイト/パオロ・ペレグリン/本城直季/マーカス・ブリースデール/カイ・ウィーデンホッファー/クリス・ホンドロス/新井 卓/ティム・ヘザーリントン/リチャード・モス/岡原功祐/ゲーリー・コロナド/アリクサンドラ・ファツィーナ/ジム・ゴールドバーグ/Q・サカマキ/東川哲也/シャノン・ジェンセン/マーティン・ローマー/ギヨーム・エルボ/ジェローム・ディレイ/アンドルー・テスタ/パオロ・ウッズ/レアケ・ポッセルト/ダイナ・リトブスキー/ガイ・マーチン

新聞、ラジオ、写真誌などでも取り上げていただき、好評発売中です。


MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中