コラム

パリ五輪で横行した選手への誹謗中傷とメディアの罪...解決の糸口は「故郷」にあり

2024年08月23日(金)19時43分
五輪, パリ五輪, オリンピック, スポーツ, 柔道, 出口クリスタ, 信濃毎日新聞, 許海実, カナダ, 韓国, 長野県塩尻市, 二重国籍, 能登半島地震

今回のAIイラスト:強靭なアスリートでも誹謗中傷の矢はこたえる AI GENERATED ART BY NEWSWEEK JAPAN VIA STABLE DIFFUSION

<スポーツ観戦の「興奮」がSNSで増幅される社会に報道機関も加担していないか?と時事芸人のプチ鹿島さんは問います。その興奮にあらがう意外なメディアとは?>

今年の元日に起きた能登半島地震。あのとき私はX(旧ツイッター)へのログインを極力控えた。一部のメディア人を含め、現地を心配しながらも明らかに「興奮している」人が見受けられ、うんざりしたのだ。

もともとSNSなんて感情を露出するものさ、と言われるかもしれないが、多くの人が共通して体験する事象が起きると拍車がかかるように見える。なので、その場からの「避難」も一つの対策と考えるようになった。

それでいうと五輪も「心の非常ベル」が鳴る案件だ。多くの人に共有されやすいし、アスリートが全力を尽くす姿は「ポジティブ」だから心置きなく感情が発信されやすい。しかし「興奮」しすぎるとどうなるか。次の記事をご覧いただきたい。

日本国籍を選ばないとなぜ批判される?

「柔道で金メダルの出口クリスタさん、五輪選手への誹謗中傷にメッセージ『悲しくなる言葉の矢を放たないで』」(信濃毎日新聞、8月2日)

パリ五輪柔道女子57キロ級をカナダ代表として制した出口クリスタ選手が自身のSNSで五輪出場選手への誹謗中傷が相次いでいることへの思いを発信。「こういう所での不毛な争いは国や選手、色んな人を巻き込んでマイナスなイメージを植え付けるだけで得する人は誰一人としていない」などと投稿した。こうした発信は彼女以外の選手にも見られた。

出口選手に関する記事ではもう一つ考えたいことがあった。「国籍選択 悩み抜いた正解」(信濃毎日新聞、7月31日)である。

カナダ人の父と日本人の母の間に生まれた出口選手は2つの国籍があり、法律で22歳に達するまでにどちらかの国籍を選択する必要があった。高校時代に届いたカナダ連盟からの最初の誘いは断った。しかし大学時代に2度目のラブコール。悩んだ末にカナダ国籍を選んだ。五輪に出る夢をかなえるならカナダのほうが可能性は高かったからだ。

私が驚いたのは「カナダ国籍を選んだ当初はSNSで批判もされた」という部分だった。え、選手の決断がなぜ批判されるの? 大きなお世話ではないか。それとも、国や五輪が絡むと興奮して感情が制御できなくなってしまうのか。

今回、決勝で対戦した韓国代表の許海実(ホ・ミミ)選手も日韓のハーフ。メダリスト会見では許選手と並び「もう一つの国籍を選択して頑張る選手は増えている。自分たちがそれを体現できているんじゃないか」と出口選手は語った。

つくづく考えてしまう。五輪は一体誰のものなのか?

プロフィール

プチ鹿島

1970年、長野県生まれ。新聞15紙を読み比べ、スポーツ、文化、政治と幅広いジャンルからニュースを読み解く時事芸人。『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』(双葉社)、『お笑い公文書2022 こんな日本に誰がした!』(文藝春秋)、『芸人式新聞の読み方」』(幻冬舎)等、著作多数。監督・主演映画に『劇場版センキョナンデス』等。 X(旧Twitter):@pkashima

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story