最新記事
シリーズ日本再発見

「立花隆は苦手だった」...それでも「知の巨人」を描く決心をしたのはなぜだったのか?

2024年06月07日(金)09時08分
武田 徹(ジャーナリスト、専修大学教授)

ただ、スタートがなかなか切れなかった。アカデミック・ジャーナリズム特集への起用が立花論を始めるきっかけになればと目論んだが、不発に終わった。そんなこんなのうちに立花は本当に人生の幕を引いてしまった。

さすがに筆者も改心した。主要な作品は既に読んでいたが、立花が自分自身の過去を語る自伝的な作品を本格的に読み始めたのはそれからだった。

それは、大袈裟な言い方に聞こえるかも知れないが、衝撃的な体験だった。苦手だったはずの立花の人生に筆者自身の過去の経験と重なる部分があまりにも多く、筆者の興味関心と響き合う内容が本当に次から次へと見つかったのだ。


 

立花と同じく小さい頃から本の虫だった人は筆者に限らず少なくないだろうが、キリスト教とつかず離れずの生活をしたり、古今東西の思想に触れようと大学時代に様々な言語を習得したりしていた立花に筆者は強い親近感を覚えた。筆者もそうだったからだ。

ただ、読書範囲、読書量を始めとして、悔しいことに筆者の方が常にスケールが小さい。我が人生を振り返ってみると、立花を避けて、あえて違う道を行こうとしていたと書いたが、とんでもない、実は同じ道を後から追いかけていた。自分がまるで立花の縮小劣化コピーのように思えてきた。

だが、スケールは小さくとも同じ道を通ってきたがゆえに気づけることもある。


武田徹(たけだ・とおる)
1958年生まれ。ジャーナリスト、評論家、専修大学文学部教授。国際基督教大学大学院比較文化研究科博士前期課程修了。著書に『流行人類学クロニクル』(サントリー学芸賞受賞)、『「隔離」という病い』『偽満州国論』『「核」論』『戦争報道』『原発報道とメディア』『暴力的風景論』『日本語とジャーナリズム』『なぜアマゾンは1円で本が売れるのか』『日本ノンフィクション史』『現代日本を読む』など。


神と人と言葉と 評伝・立花隆

 『神と人と言葉と 評伝・立花隆
  武田徹[著]
  中央公論新社[刊]


(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中