コラム

世界展開する中国の「警備会社」はガードマンか、傭兵か──各国の懸念材料とは

2023年10月27日(金)13時25分

中国では2009年にPSCが法制化され、それ以来急速に発展してきた。

グレーゾーンで活動するPMC /PSCはロシアだけでなく、アメリカ、イギリス、イスラエル、南アフリカなどにもある。どれも民間企業だが、その国の軍出身者で構成されることがほとんどで、多かれ少なかれ自国政府との結びつきが強い。

ロシアのワグネルはもちろんだが、欧米のPMC/PSCもほぼ同じだ。米英主導のイラク侵攻(2003)後に米国防省との契約に基づいてイラクで活動した米ブラック・ウォーターは、その典型例である。

これら同業他社と比べて、中国の警備会社には大きく二つの特徴がある。

「非武装」の外交的理由

第一に、火器による武装が限定的なことである。中国では警備会社の武装が原則的に禁じられている。

華信中安などが中国政府の特別な許可のもと、武装して中国船をエスコートするソマリア沖の「ビジネス」は、確認される範囲で必ずしも一般的ではない。

とりわけ、民間人の武装が法的に禁じられている国で中国の警備会社が用いる手段は防犯設備や警備犬などにとどまり、襲撃などが発生した場合には現地の軍隊や警察にスムーズに出動してもらう体制を築くことが多い。

その一因は、一部の紛争地帯を除いて、武装した警備会社の展開が、中国にとって外交的マイナスが大きいことにある。

近年でこそ中国は「一帯一路」ルート上のジブチやセーシェルなどに軍事拠点を構えていてるが、冷戦時代から中国は、海外での軍事作戦が多いアメリカやソ連(ロシア)との対比で、「途上国に軍隊を送り込まない自国こそ途上国の味方」とアピールしてきた。

1949年の建国以来、その軍事活動が周辺地域(南シナ海も台湾海峡も中国の主張では中国の領域)にほぼ限られたことは、中国がこの主張をしやすくする一因だった。

その意味で、海外に展開する中国の警備会社があまり武装しないことは不思議でない。

顧客はほとんど中国企業

第二に、顧客の偏りだ。

途上国に展開するロシアや欧米のPMC/PSCの多くは、様々な顧客を抱えている。そこには現地政府はもちろん企業やNGO、さらに各国の大使館なども含まれる。

これに対して、中国の場合、警備会社の顧客のほとんどが現地に進出している中国企業だ。例えばジョンズ・ホプキンズ大学の研究チームが東アフリカのケニアで行った調査では、この国に進出している5社のいずれもが中国企業、あるいは中国企業と現地企業の合弁企業と契約していた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、1万件減の22.2万件 労働市

ビジネス

「ECB利下げ開始確実」とポルトガル中銀総裁、6月

ビジネス

ECBは利下げ急がず、6月以降は慎重に=ラトビア中

ビジネス

英中銀、利下げ待つべき 物価圧力の緩和確認まで=グ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story