コラム

ドイツに訪れる「アベノミクスと同様」の大変化、日本が抜け出せない「緊縮病の宿痾」

2025年03月19日(水)11時50分
フリードリヒ・メルツCDU党首

2月の総選挙で勝利し、ドイツ次期首相に就任することが見込まれているフリードリヒ・メルツCDU党首 Lisi Niesner-REUTERS

<ドイツを中心に欧州株が上昇しているのはなぜか。緊縮的な財政政策を続けていた経済大国ドイツで、憲法改正をも伴う政治決断が下されようとしている>

2025年初来の主要国の株価騰落率は、ドイツ(DAX+15.5%)>日本(TOPIX-2.5%)・米国(S&P500-4.1%)とはっきりと明暗が分かれている(3月14日時点)。

ドイツを中心とした欧州株上昇は、2月19日コラム「トランプ政権の外圧で『欧州経済は回復』、日本経済の停滞は続く」で説明したように、トランプ政権による安全保障政策の変化を背景に、欧州各国が自ら軍事費を拡大させる政治決断を行うとの期待が高まったためである。

緊縮的な財政政策を金科玉条のごとく続けていた経済大国ドイツにおいて、2月の総選挙での勝利を経てキリスト教民主同盟・社会同盟(CDU・CSU)を率いるCDU党首フリードリヒ・メルツ氏は、大胆な政策転換を目指している。

具体的には、5000億ユーロ規模のインフラ投資基金(GDP比11%)設立が表明されて、若干の修正を踏まえて緑の党の合意を取りつけ、財政規律を緩和する憲法改正を伴った政策転換が実現する可能性が高い。この特別基金によって、今後10年以上にわたりGDPの1%相当の歳出拡大が実現する。

同時に、防衛費のうちGDP比1%を超える歳出を債務ブレーキルールの適用外として、現在GDP対比2%前後の防衛費を、NATO(北大西洋条約機構)が新たな目標として検討中とされる3%まで増額する実現可能性が高まった。インフラ投資と防衛費については重なる部分があるので割り引く必要はあるが、2025年後半からGDP対比2%相当の追加的な政府歳出拡大が実現するとみられる。

これまでのドイツの経済政策運営を踏まえると、歴史的な歳出拡大が実現することを意味する。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国は最大雇用に近い、経済と労働市場底堅い=クーグ

ビジネス

米関税がインフレと景気減速招く可能性、難しい決断=

ビジネス

中国製品への80%関税は「正しい」、市場開放すべき

ワールド

ロシアで対独戦勝記念式典、プーチン氏は連合国の貢献
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story