コラム

抽象的で理解の難しい『2001年宇宙の旅』が世に残り続ける理由

2025年08月21日(木)15時10分

でも初めて観たとき、この映画の意味はほとんど分からなかった。

太古の地球に忽然と現れた黒い大きな板の意味は何か(映画版ではモノリスと呼称していない)。最新型AIを備えたコンピューター、HAL9000はなぜ壊れたのか。ラストの展開でボーマン船長が赤ん坊に生まれ変わった意味は何か。


重要なポイントが理解できていない。僕が鈍くて周回遅れだったからではない。驚愕した世界中の人たちもそうだったはずだ。

モノリスとスターチャイルドの意味、HALが急に壊れた理由などは、映画公開から3カ月後にクラークが発表した小説版『2001年宇宙の旅』によって、ほぼ明らかになった。

つまり映画単独では、あまりに難解というか抽象的すぎるのだ。

説明したくないというキューブリックの生理はよく分かる。ある程度の説明はしないと客が置き去りになるというプロデューサー的な論理もある。映画監督はこの2つの間を行き来する。

ところが本作で、キューブリックは思いきり生理を優先した。クラークの小説がすぐに世に出ると計算したのか、あるいはクラークとの確執があったので意地になったのか、そのあたりはよく分からない。

でもこれだけは言える。説明がないからこそ、半世紀以上も前に作られたこの映画によって、宇宙への畏怖を僕は十分に実感した。AIはどこまで進化するのかという怖さも。

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

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