コラム

中国の過剰生産能力問題の元凶は大手国有企業

2017年01月25日(水)17時20分

 中国では過去数年の間に高速鉄道などのインフラが相当整備されたし、ビルやマンションもいっぱい建ったが、まだ都市化が進展する余地があると思うし、中国は機械や金属製品など鉄鋼を使う製品の輸出国でもある。これを考えると、2014年以降、中国の一人あたり見かけ鉄鋼消費量は2年連続で減少したものの、もうこれでピークが過ぎたと即断することはできないように思う。現に2016年は見かけ鉄鋼消費量が2015年より1%程度増加した模様だ。

業界大手ほど非効率

 2015年は中国の鉄鋼業にとって試練の年だった。国全体の粗鋼生産量は2.3%減少し、多くの鉄鋼メーカーが赤字に陥った。ただ、「冬の時代」であればこそ経営効率の良い企業と悪い企業の違いが鮮明に現れる。2015年に各社の粗鋼生産量が増えたか減ったかによって中国の主要鉄鋼メーカーを勝ち組と負け組に分けてみた。するとかなりはっきりした傾向が見えてきた。

 ここで「勝ち組」とは2015年に粗鋼生産量が前年に比べてプラス成長をした企業を指す。「負け組」とは、2015年に粗鋼生産量が5%以上減少した企業を指す。中国全体の粗鋼生産量はこの年2.3%減少したので、減少幅が0~5%であれば業界全体の傾向と似たり寄ったりだと言える。そこでこれらは「引き分け」ということにした。

 分析の結果、次のことがわかった。

1.大手が大きく負け越し、中堅が大きく勝ち越した。

 粗鋼生産量でトップ11社(大手)と、それ以下の39社(中堅)に分けると、大手は1勝7敗3分であったの対し、中堅は18勝5敗15分であった。

2.国有企業は負け越し、民営企業は無敗だった。

 上位50社のうち国有企業が26社、民営企業は24社だったが、国有企業は7勝12敗7分、民営企業は12勝0敗12分だった。

3.河北省が大きく勝ち越し、遼寧省は大きく負け越した。

 河北省に本社と主要な製鉄所を持つ企業は8勝1敗6分だったが、遼寧省の企業は1勝3敗だった。大手のなかでの唯一の勝者は河北鋼鉄だったし、河北省には元気のいい民営鉄鋼メーカーも多い。河北省は鉄鋼需要が多い大都市(北京市、天津市)に隣接していること、もともと鉄鉱石の産地であったこと、港からの距離が比較的近いことなど、立地条件が相対的に恵まれている。一方、遼寧省は地元の大手鉄鋼メーカーの不振が原因で地域経済全体がマイナス成長に陥り、悪循環に陥っているようである。

4.産業政策によって支援された企業は大きく負け越し、それ以外の企業が大きく勝ち越した。

 2009年の産業政策では単に大手企業のシェア拡大を支援する、と抽象的に書いてあるばかりでなく、具体的な企業名に言及し、その拡大を支援すると書いてある。それらの企業が2015年にどうだったかを見ると1勝7敗1分であった。一方、2009年の産業政策では企業名が出ていない企業、つまりその時点では小さくて淘汰の対象とされていた企業や無視されていた企業がどうだったかというと、17勝5敗17分だった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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