コラム

新規上場スナップチャット、自称「カメラ会社」で何を狙うのか

2017年03月06日(月)15時10分

上場申請書類のなかで同社は「カメラ会社」としての可能性について、「パソコンを起動するとカーソルが全ての作業のスタートになるがごとく、スマホではカメラ・スクリーンがスタートになる時がやってくる」と述べている。

実際にスナップチャットでは、まずはカメラからアプリがスタートするように構成されている。また同アプリのヘビーユーザー層であるミレニアル世代においてはセルフィーと呼ばれる自撮りが定着しており、「カメラから入る」というプロセスがすでに定着しつつあるのだ。

なお、セルフィーしてSNSに投稿しているかどうかで感性・思考・行動パターンが大きく異なり、世代の違いを端的に表していると米国では言われている。あなたはセルフィー×SNS投稿をしたことがあるだろうか。

次世代をリードするイノベーションのシーズ

米国において注目を集めマーケットシェアを伸ばしてきてはいるものの、利益ベースでは赤字企業であるスナップ社に高値の株価がついたのは、その成長性やイノベーションへの期待からである。

イノベーションという観点からは、スピーゲルCEOが2016年MIT Technology Reviewによる「35歳未満の35人のイノベーター」の1人に選出されているほか、2017年Fast Company誌による「世界で最もイノベーティブな企業50社」の5位に同社がランクインしている。

スナップ社では、変化に対応するレベルから、変化をもたらすレベルへと志向しており、イノベーションやR&D投資を積極的に行っている。昨年12月には、イスラエルの拡張現実(AR)のベンチャー企業を買収するなどM&Aにも積極的だ。

スピーゲル氏は、イノベーションを重ねていくことやチャレンジし続けていくことが同社の重要な企業文化であると語っている。特に重要なのは、真のイノベーションを実現していくためには、かつてエジソンが語ったように、試行錯誤が不可欠であり、失敗することもあると明快に言明していることだ。

これらのことから筆者としては、スナップ社の強みとは、「イノベーションを起こそうとする起業家精神×失敗を許容する企業文化×それを支えるだけの上場後の資金力」と定義している。

今回の上場により同社では34億ドルの資金調達を実現した。その資金が上記の企業文化のなかで使われていくことに大きな期待が持たれるのは当然だろう。

実際にスナップ社では、次世代をリードしていくようなイノベーションの"シーズ"を豊富に抱えている。

同社では、昨年9月にスペクタクルズというカメラ付き拡張現実眼鏡を発売している。これは同社が「カメラ会社」であると自社をリブランディングした際と同時期に発売されたものであり、ハードであるスペクタクルズとソフトであるスナップチャットの融合を目指したものである。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、6月以降の数回利下げ予想は妥当=エストニア

ワールド

男が焼身自殺か、トランプ氏公判のNY裁判所前

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story