コラム

ロシアの対シリア軍事介入はどこまで進むか

2015年11月27日(金)17時17分

トルコ軍機に撃墜されたのと同じロシアのSu-24戦闘機 DMinistry of Defence of the Russian Federation/Handout via Reuters

 今年9月30日、ロシアはシリア領内における空爆を開始し、10月7日には巡航ミサイル攻撃もカスピ海上から実施した。ロシアの中東への軍事介入としては、冷戦終結後初となるものである。さらに10月13日、パリでIS(「イスラム国」)シンパによる同時多発テロが発生すると、ロシア政府はエジプトのシナイ半島上空で発生したロシア機墜落事件もISの犯行であったことを突然認め、対IS作戦でフランスなど西側諸国と協力する姿勢を打ち出した。

 ロシアの思惑としては、「対IS」で西側との団結をアピールすることでロシアの擁護するアサド政権への退陣要求を緩和し、シリア内戦を有利な形で終結へ導くとともに、ウクライナ紛争で悪化した西側との関係を修復するのが狙いであると思われる。

 現在、ロシアはシリア北西部のラタキアに最新型のSu-34戦闘爆撃機やSu-30SM多用途戦闘機など32機を展開するとともに、11月17日以降は25機もの大型爆撃機をシリア空爆専任部隊に指定して自国内からの空爆も行っている。これはロシア本土から発進した爆撃機がカスピ海、イラン領、イラク領を経てシリアまで長距離飛行を行い、爆弾や巡航ミサイルによる空爆を行うというもので、シリア本土に展開した航空機のみによる空爆と比べて格段の強化と言える。

 カスピ海からは11月19日に二度目の巡航ミサイル攻撃を実施しており、爆撃機による巡航ミサイル攻撃と合わせて100発以上の巡航ミサイルをISの「首都」とされるラッカなどに撃ち込んだ。米国やフランスと比べても格段に大規模な攻撃であり、今後、英国が攻撃に加わるとしてもロシアがシリア内戦における最大の軍事的プレイヤーであることは変わらないだろう。

 だが、プーチン大統領は20日、攻撃の成果を報告したショイグ国防相に対して、空爆の成果を高く評価しつつも、まだ「不十分」であるとの認識を示した。

NATO加盟国のトルコと全面戦争はできない

 さらに24日にはトルコ国境付近でロシア軍の戦闘爆撃機がトルコ空軍機によって撃墜され、パイロット1名と救出に向かった海軍歩兵部隊の隊員1名が死亡するという事件が発生し、シリアを巡ってロシアとトルコの軍事的緊張関係が高まった。ロシアは最新鋭のS-400防空システムをラタキアの空軍基地に展開させた他、長距離防空システムを搭載した巡洋艦モスクワをラタキア沿岸に派遣、さらに戦闘機部隊を増派するなど、防空能力の強化でトルコへの牽制を強めに掛かっている。

プロフィール

小泉悠

軍事アナリスト
早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在は未来工学研究所研究員。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏のミサイル防衛システムへの関与で調査要請=

ビジネス

丸紅、自社株買いを拡大 上限700億円・期間は26

ワールド

ウクライナ協議の早期進展必要、当事国の立場まだ遠い

ワールド

中国が通商交渉望んでいる、近いうちに協議=米国務長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story