コラム

英総選挙、どっちつかずより「とっとと離脱」を選んだイギリスは大丈夫か

2019年12月14日(土)10時58分

そこで2017年の総選挙では、労働党はブレグジットの実現を公約としたが、今回は「再度の国民投票」を選択肢に入れた。コービン党首自身は「ブレグジットについて、自分は中立です」と宣言していた。

もし政権が取れたら、EUと再度交渉をして新たな離脱協定案を作る。それを国民が受け入れるのか、あるいは残留を希望するかを聞き、その結果を受け入れるというスタンスであるという。

しかし、「離脱中止」、あるいは「再度の国民投票」は、現在のイギリスではタブーだ。

もちろん、今でも残留を願う人はいるし、離脱による経済への負の影響が多大であることもよく紹介されている。

しかし、最初の国民投票から3年半経ち、何度も「離脱予定日」が延長され、下院での議論が行き詰まっている様子を目撃してきた国民からすると、残留派の国民でさえ、「とにかく、早く何かしてくれ」という思いが強い。

もし労働党の言うように「もう一度、EUと交渉し、新たな離脱案を作り、再度国民投票をして......」となった場合、数カ月、いや1年はかかるかもしれない。

国民は「いつ果てるとも分からない状態」に、心底飽き飽きしている。

ブレグジットの実行を願う、これまでは労働党支持の有権者は、今回、保守党を選んだのである。

「協力できない」と言われ

労働党の大敗には、コービン党首自身への嫌気感もかなり影響している。

公約には電気、水道、鉄道などの公営化を含む、サッチャー政権以前の時代に後戻りするような政策が含まれており、反コービン派が言うところの「共産主義的」匂いがあった。

離脱中止というラジカルな選択肢を公約にした自由民主党のジョー・スウィンソン党首は、自分自身が落選するという顛末を経験したが、彼女が毛嫌いしていたのがコービン党首。「一旦は、ブレグジットを実行すると言っていた。ああいう人とは協力できない」と何度か明言した。

コービン氏は保守系の力が強いメディアも敵に回した。労働党内のユダヤ人差別の撤廃に同氏が積極的ではないという記事が継続して掲載されてきた。

筆者からすると、ジャム作りが趣味というコービン氏は人柄が良さそうに見える。時には妄言を発し、首相職を狙うためには自説を曲げることも厭わないジョンソン氏よりは、人間的に正直に見える。

しかし、ジョンソン氏は今後、5年間はイギリスの首相であり続け、コービン氏は来年上半期には、政治の表舞台から去ってゆく。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

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