コラム

【英国から見る東京五輪】タイムズ紙は開会式を「優雅、質素、精密」と表現

2021年07月26日(月)17時48分
東京五輪の開会式から

東京五輪の開会式から Leah Millis-REUTERS

23日、東京五輪の開会式が国立競技場で開催された。

皆さんはテレビでご覧になっただろうか。

英国ではBBCが昼12時から午後4時まで、中継で放送した。筆者は選手団の入場場面は時折席を外したものの、ほぼ全体を視聴した。

無観客の開会式という前代未聞の設定、式の直前には楽曲の作曲担当者と制作・演出チームのショー・ディレクターだった人物とが辞任する危機があり、一体どうなることやらと思ったが、期待をはるかに超えた内容であるように感じた。

日本国内に住む方の感想(非常に厳しい判断を下している方もいらした)と筆者の感想は若干異なるかもしれない。

「外の視点」として、英メディアの報道と、筆者の感想を記してみたい。

英メディアは概ね高評価

英国のメディアによる五輪報道は、長年日本に住む特派員と五輪のために東京を訪れている報道陣による。

特派員は開会までに至った様々な紆余曲折を熟知しており、その報道は日本に住む人の反応を踏まえた上でのものになるはずだ。

タイムズ紙を筆頭とする複数の英メディアは、それまでは開催に否定的な視点を提供してきた場合でも、開会式自体には高い評価を与えている場合が多い

例えば、タイムズ紙のリチャード・ロイドパリー東京支局長兼アジア版編集長は開会式が「優雅、質素、精密」であったとする記事を書いている(全文閲読には定期購読者になることが必要)。

開会式・閉会式の制作・演出チームのディレクター(統括役)を務めていた小林賢太郎氏は過去にユダヤ人大量虐殺を題材にしたコントを発表していたことが判明し、22日、解任された。しかし、東京五輪・パラリンピック組織委員会の判断で、内容の見直しはしない形で実施された。

ロイドパリー氏は、記事の中で、小林氏の歴史上の虐殺行為についての認識は貧相なものであったものの「美しい仕事を残した」という。「開会式は危機の中で開催される五輪ということで、勝ち誇ったような雰囲気ではなく、抑制された式になると言われていた。小林氏が手掛けた開会式は、微妙、繊細、静かながらも壮観で、穏やかなジョーク、軽妙なほのめかしでいっぱいだった」。

いくつかの例を挙げた後、ロイドパリー氏は開会式が優雅、質素、精密さを表現したと書き、「こうした特質は世界が日本から想起するものであるし、日本人が誇りに思うことでもある」。

そして、東京の開会式には「2008年の北京五輪のような攻撃的な国家主義は見られず、2012年のロンドン五輪の開会式にあった、生意気な人物が見せる利口さもなかった」。

「プレスリリースによれば、開会式のショーのコンセプトは『感情によって一つになる』だった」。どんな感情か?「もっとも明白なのは、緊急事態宣言が敷かれる都市で、世界中が新型コロナのパンデミックに襲われる中、五輪が始まったことへの安心と驚きだった」。

筆者が見た開会式

ロイドパリー氏の記事が指摘した、「優雅、質素、精密さ」、「静かながらも壮観」、「安心と驚き」を筆者自身も感じていた。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米副大統領と国防長官、イスラエルに自制要求 民間人

ワールド

呼吸器疾患の増加、既知の病原体が原因=中国保健当局

ワールド

フィリピン・ミンダナオ島で爆発、4人死亡 大学のミ

ワールド

北朝鮮、「偵察衛星運用室」が任務開始=朝鮮中央通信
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ間に合う 新NISA投資入門
特集:まだ間に合う 新NISA投資入門
2023年12月 5日号(11/28発売)

インフレが迫り、貯蓄だけでもう資産は守れない。「投資新時代」のサバイバル術

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    完全コピーされた、キャサリン妃の「かなり挑発的なドレス」への賛否

  • 2

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者になる?

  • 3

    「ダイアナ妃ファッション」をコピーするように言われていた、メーガン妃とキャサリン妃

  • 4

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...…

  • 5

    上半身はスリムな体型を強調し、下半身はぶかぶかジ…

  • 6

    ロシア兵に狙われた味方兵士を救った、ウクライナ「…

  • 7

    バミューダトライアングルに「興味あったわけじゃな…

  • 8

    男たちが立ち上がる『ゴジラ-1.0』のご都合主義

  • 9

    世界でもヒット、話題の『アイドル』をYOASOBIが語る

  • 10

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 1

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不意打ちだった」露運輸相

  • 2

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者になる?

  • 3

    「大谷翔平の犬」コーイケルホンディエに隠された深い意味

  • 4

    下半身が「丸見え」...これで合ってるの? セレブ花…

  • 5

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破…

  • 6

    米空軍の最新鋭ステルス爆撃機「B-21レイダー」は中…

  • 7

    ミャンマー分裂?内戦拡大で中国が軍事介入の構え

  • 8

    「超兵器」ウクライナ自爆ドローンを相手に、「シャ…

  • 9

    男たちが立ち上がる『ゴジラ-1.0』のご都合主義

  • 10

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 1

    <動画>裸の男が何人も...戦闘拒否して脱がされ、「穴」に放り込まれたロシア兵たち

  • 2

    <動画>ウクライナ軍がHIMARSでロシアの多連装ロケットシステムを爆砕する瞬間

  • 3

    「アルツハイマー型認知症は腸内細菌を通じて伝染する」とラット実験で実証される

  • 4

    戦闘動画がハリウッドを超えた?早朝のアウディーイ…

  • 5

    リフォーム中のTikToker、壁紙を剥がしたら「隠し扉…

  • 6

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破…

  • 7

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 8

    ここまで効果的...ロシアが誇る黒海艦隊の揚陸艦を撃…

  • 9

    また撃破!ウクライナにとってロシア黒海艦隊が最重…

  • 10

    またやられてる!ロシアの見かけ倒し主力戦車T-90Mの…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story