コラム

変電所の火災で「機能マヒ」に陥った英ヒースロー空港...最重要インフラの脆弱性、学ぶべき教訓

2025年03月22日(土)16時35分

重要インフラは政府が監督する必要性が浮き彫りに

空港のインフラが故障した場合、負担を強いられるのは乗客と航空会社だ。「乗客に対応する費用の公平な分担方法を見つけない限り、ヒースロー空港が改善するインセンティブはほとんどない」とウォルシュ氏は空港側の責任を追及している。

フィナンシャル・タイムズ紙は「火災は世界でも最も民間所有の割合が高い英国の重要インフラは政府が監督する必要性を浮き彫りにしたと専門家は指摘している。英国の電気、ガス、通信、水道網、港湾や空港はすべて民間企業の手に委ねられている」と警鐘を鳴らす。

ヒースロー空港にバックアップシステムがなかったわけではない。しかし中規模都市に匹敵する電力供給を保証するバックアップを構築するには機能マヒによる損失を上回るコストがかかるという打算が働く。利益・成長優先か、それともインフラの強靭性を重視するのか。

今回の事故は成長重視のレイチェル・リーブス英財務相が支持するヒースロー空港の第3滑走路建設計画にも影響を与えかねない。ウクライナ戦争や米中対立の激化で平和なグローバリゼーションの時代が幕を閉じる中で、重要インフラの民営化も重大な転機を迎えている。

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プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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