コラム

「規則は自分たち以外に適用される」...カタールW杯めぐる疑惑で見えてきたEUの深すぎる闇

2022年12月14日(水)17時26分
欧州議会のエヴァ・カイリ副議長

欧州議会のエヴァ・カイリ副議長(11月22日) EP/­Handout via REUTERS

<ワールドカップ開催中のカタール側から金銭を受け取り、欧州議会でロビー活動を行っていた疑いで欧州議会の副議長を逮捕>

サッカー・ワールドカップ(W杯)の開催国カタールに絡む汚職スキャンダルで、ベルギーの捜査当局は欧州連合(EU)欧州議会のエヴァ・カイリ副議長(44)=ギリシャ選出=と父親、夫フランチェスコ・ジョルジ氏ら数人を逮捕、このうちカイリ氏ら4人を起訴した。欧州議会のロベルタ・メッツォーラ議長は腐敗議員に「免罪符はない」と述べた。

事件の詳細はまだ明らかにされていないが、捜査当局は汚職、マネーロンダリング(資金洗浄)、犯罪組織への加担に関して「大掛かりな捜査」を進めている。カイリ氏は欧州議会で湾岸諸国に関して積極的に演説したり、「カタールは中東における労働改革の先頭ランナー」と称賛したりしていた。

カイリ氏らはカタール側から金銭を受け取った見返りに欧州議会でロビー活動を行っていた疑いが持たれている。カタールEU代表部は疑惑について「根拠はなく、重大な誤り」と全面否定している。カイリ氏の弁護士もギリシャのテレビ局に「彼女は無実で、カタールから金銭を受け取っていない」と潔白を主張している。

捜査当局は証拠隠滅を防ぐため、欧州議会で働くスタッフ10人のIT(情報技術)リソースを凍結した。

深刻な人権侵害に対する責任追及と国際司法を促進するために設立された国際NGO(非政府組織)「ファイト・イムピューニティ(刑事免責)」の会長を務めるアントニオ・パンツェリ元欧州議会議員=イタリア選出=も逮捕された。パンツェリ氏の自宅から現金約60万ユーロ(約8640万円)が押収された。NGOが金銭の受け皿になっていたとみられる。

腐敗防止策は「職務権限の自由の侵害」と拒絶

EUにはNGO、ロビー団体、コンサルタント、慈善団体など法制化に影響を与えようとする団体が透明性を確保するため登録するデータベースがある。登録された団体は予算とNGOへの1万ユーロ(約144万円)以上の寄付を申告することが義務付けられる。しかしスキャンダルの渦中にある「ファイト・イムピューニティ」は登録されていなかった。

ブラックジョークにしか聞こえないが、「ファイト・イムピューニティ」の使命は国際司法の柱として説明責任の原則を徹底し、深刻な人権侵害や人道に対する不処罰への闘いを促進することだ。国家や個人の責任を監督し、違反行為について説明責任を確保するための国際的・地域的なメカニズムの効果を高めることも目標に掲げている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米下院、カリフォルニア州の環境規制承認取り消し法案

ワールド

韓国大統領代行が辞任、大統領選出馬の見通し

ビジネス

見通し実現なら経済・物価の改善に応じ利上げと日銀総

ワールド

ハリス氏が退任後初の大規模演説、「人為的な経済危機
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    フラワームーン、みずがめ座η流星群、数々の惑星...2…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story