コラム

<COP26きょう開幕>「2025年ネットゼロ」「30年ネットネガティブ」を目指すスコットランドの酪農家に学ぶ逆転の発想

2021年10月31日(日)11時27分

大手スーパーの求めに応じ、酪農家は大量の牛乳を生産する。それが過剰生産につながり、牛乳価格が暴落する原因になる。大量生産のため設備投資を求められる酪農家は借金を膨らませて疲労困憊する。回し車を走り続けるハツカネズミのような状況に不満を感じたカニンガムさんは他の酪農家と地元スーパーで抗議活動を行う。

「今までのやり方が間違っていた」と目が覚めたカニンガムさんは大手スーパーのサプライチェーンから独立して戸別配達を行うモデルに切り替えた。徹底的に有機農法を採用し、自分たちの手で牛乳を低温殺菌した。カニンガムさんが「ゴールドスタンダード」と呼ぶ「モスギール有機酪農場」の牛乳は甘美なクリームトップが特徴だ。

CO2回収量を増やすため大きな葉っぱの牧草を植える

91ヘクタールまで広がった「モスギール有機酪農場」では41頭の乳牛と52頭の子牛が牧草だけを食べて育つ。冬は外で牧草を食べることができないため、4カ月間搾乳はお休みになる。牧草地は光合成による二酸化炭素(CO2)の吸収量を増やすため耕作はせず、葉っぱの大きなマスタードなどを牧草として植えている。

20211030_160752.jpeg
CO2をたくさん吸収できるよう葉っぱの大きな植物が牧草として植えられている(同)

ソーシャルメディアを使って温暖化対策や環境保護に取り組んでいることをこまめにアピールした。いまや1日に900軒、1週間で2万本まで拡大した牛乳の戸別配達にはバーンズの似顔絵があしらわれたガラス瓶を使い、回収して何度も利用している。このガラス瓶の使用によって4カ月間で14万本のペットボトルを削減した。

20211030_163132.jpeg
バーンズの似顔絵をあしらった戸別配達用の牛乳瓶(同)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story