コラム

英米が大増税に舵を切る!?──コロナ対策で膨らんだ政府の借金をどう返すかの議論が始まった

2021年03月05日(金)10時58分

イギリスが法人税を25%に引き上げても、スナク財務相が言う通り先進7カ国(G7)の中では依然として最も低い。しかしEU加盟国の中にはアイルランドをはじめハンガリー、リトアニア、チェコ、スロベニア、エストニア、フィンランドなど法人税がイギリスより低い国が目白押しになる。

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英産業連盟(CBI)のトニー・ダンカー事務局長は「イギリスへの投資を計画する人々に憂慮すべきシグナルを送る」と警戒する。英財政研究所の上級研究エコノミスト、スチュアート・アダム氏は「企業は中期的にイギリスへの投資を減らすことになり、経済活動が抑制され、増税による税収増が減少する」という。

バイデン米政権も法人税を21%から28%に引き上げる構え

バイデン米政権のジャネット・イエレン財務長官も、トランプ前政権が35%から21%まで引き下げた法人税率について「トランプ減税で貧富の格差が拡大した」との批判を展開し、再び28%に引き上げる方針を明らかにしている。所得税の最高税率も37%から39.6%に戻すという。

国際的な税率引き下げ競争が過熱する中、イエレン長官はトランプ前政権時代の方針を180度転換して、国際課税ルールについてデジタル課税と世界各国の法人税の「最低税率(15%前後とみられている)」を一体的に協議し、「底辺への競争」を引き起こす"タックス・ウォーズ"に歯止めをかけたい考えだ。

米シリコンバレーの巨大IT企業は国ごとにデジタル課税が導入されるのを警戒している。このためイエレン長官は本音ベースでは低法人税率国を締め上げる法人税の「最低税率」だけが目的という警戒論が日本やEUにはくすぶっているそうだ。

スナク財務相は昨年6月、フランス、イタリア、スペインとともに「巨大IT企業は本社がどこにあってもコロナ危機でより収益性が高くなった。価値と利益を生み出す国で公正な税負担を支払うことを期待する」とスティーブン・ムニューシン米財務長官(当時)に求めた。

英米は「同床異夢」とは言うものの、イギリスの法人税引き上げにはバイデン政権の法人税引き上げを援護射撃する思惑も働いているのだろう。スナク財務相は今年4月から2年間、プラントと機械への投資額の130%を利益と相殺できる「スーパー控除」制度を導入し、企業にイギリス国内での投資を促した。

地域間の経済格差を解消するため、今年後半から地区内では関税が発生せず、進出企業に優遇税制が認められる「フリーポート」をテムズ川、リバプール、イースト・ミッドランズ空港など8カ所に設ける。スコットランド、ウェールズ、北アイルランド各自治政府もそれぞれのフリーポート政策を発表する。

英米の法人税引き上げが吉と出るか凶と出るかはまだ分からない。しかしタックス・ヘイブン(租税回避地)や巨大IT企業による行き過ぎた租税回避の実態を目の当たりにした有権者の怒りに、市場主義の旗振り役だった英米も抗えなくなったことだけは間違いなさそうだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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