コラム

独立をめぐるカタルーニャ「内戦」の勝者と敗者 36歳女性弁護士が大躍進した語られない真実

2017年12月23日(土)22時30分

kumura20141223134205.jpg

上のグラフは所得階層から分析した独立への賛否の割合である。所得が増えるにつれ、独立を支持する人が多くなる。独立派は「独立派には教育レベルの高い人が多い」と説明する。がしかし、ロンドン出身で28年前からバルセロナで暮らす独立反対派のコンピュータープログラマー、チャールズ・アブレットさん(55)はこう解説する。

kumura20141223134206.jpg
チャールズ・アブレットさん(筆者撮影)

「地中海経済圏に位置し、産業の集積がある豊かなカタルーニャ州には1950~60年代に南部アンダルシア州など他の地方から多くの労働者がより良い仕事を求めて大量にやって来ました。こうした労働者階級は、独立運動はカタルーニャ人の優越主義で、我々を排除するものだと猛烈に反発しているのです」

アンダルシア出身で、努力して完璧なカタルーニャ語をマスターしたアリマーダス氏はこうした労働者階級の声を代弁してくれる頼もしいヤング・プロフェッショナル。TV映りも抜群だ。冴えないプチデモン前首相よりアリマーダス氏の方が絵になる。

シウダダノスの得票数は110万。プチデモン氏がカタルーニャ経済の底辺を支える労働者の声を無視して独立に突き進むのは間違っている。アリマーダス氏は「選挙に勝利したのは私たちよ」と宣言したが、彼女が州首相に就任するシナリオはない。シウダダノスを無条件で支持できるのは今回の選挙で議席を大幅に減らした国民党だけだからだ。

次の国政選挙で国民党政権が終焉を迎えない限り、膠着状態を解消する手立てはない。カタルーニャでは独裁者フランコの死後、カタルーニャ語と歴史・伝統・文化の教育が徹底され、若い世代は独立を支持する傾向が強まっている。長期的に見るとカタルーニャは確実に独立に向かっている。

スペイン国家警察の介入で約900人の負傷者を出した先の住民投票と州議会選の結果を見ても独立派が後退することは考えられない。独立派の得票率はいずれ50%を超えるだろう。その前にスペイン中央政府は独立派弾圧ではなく、自治権拡大や連邦制への移行を含めた抜本的な話し合いに舵を切るべきだ。

アブレットさんは深いため息をついた。「解決策はありません。カタルーニャは完全にカオスに陥っています」。カタルーニャに進出する日系企業89社の憂鬱もますます深まる。独立運動の敗者は、イギリスの欧州連合(EU)離脱と同様、世界展開するグローバル企業。ナショナリズムがネオリベラリズム(新自由主義)を追い詰める。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

無視できない大きさの影響なら政策変更もあり得る=円

ビジネス

ECB当局者、6月利下げを明確に支持 その後の見解

ビジネス

米住宅ローン金利7%超え、昨年6月以来最大の上昇=

ビジネス

米ブラックストーン、1─3月期は1%増益 利益が予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story