コラム

働けるのに「あえて働かない」人たち...空前の「人手不足」のなか、彼らが求めているものとは?

2023年11月30日(木)11時14分
雇用のミスマッチ(イメージ画像)

JIRAPONG MANUSTRONG/ISTOCK

<働くことを希望し、働くことも可能だが「短時間しか働かない」「就職活動をしない」人が大量に存在する日本のいびつな現状>

働く意思があるにもかかわらず、実際に仕事をしていない人が530万人に達するという試算が明らかとなった。日本社会は空前の人手不足、供給不足となっているが、多くの労働者を生かし切れていない実態が改めて露呈したと言えるだろう。

内閣府は10月の月例経済報告で、人手不足が深刻化するなか、多くの雇用ミスマッチが発生している現状を示した。

報告では、①就労時間の増加を希望しており、実際に増やすことができる人が265万人、②失業者として仕事を探している人が184万人、③働くことを希望しており、実際に働けるものの、あえて就職活動をしていない人が84万人となっており、全てを合計すると約530万人になる。日本の就業者数は6750万人なので、その約8%に当たる人材が眠っていると解釈できる。

この中で特に問題なのは、①と③だろう。①に該当する労働者のうち半数近くが女性の短時間労働者、つまりパート労働者ということになるのだが、就労時間の増加をためらっている理由は、年収が一定金額を超えると扶養から外れ、手取りが減少するという、いわゆる「年収の壁」である可能性が高い。

雇用のミスマッチと男女間の格差の問題は同一

③については、「勤務時間・賃金が希望に合わない」「自分の知識・能力に合う仕事がない」という理由が多く、典型的な雇用のミスマッチと考えられる。企業側が多様性のある職場環境を提供したり、業務の高付加価値化を進めていけば、多くの人材が労働市場に戻ってくるだろう。加えて言うと、どちらも女性が多いという点で一致しており、日本の場合、雇用のミスマッチと男女間の格差の問題は同一であることが分かる。

②の仕事を探している人(失業者)については男性のほうが多いという特徴が見られ、仕事に就けない理由で最も多いのは「希望する仕事がない」という項目だった。失業者については、本人の意思と実際に持っているスキルに乖離が生じている可能性が高い。

政府が積極的に学び直しの機会を提供し、労働者のスキルを高めることで、ミスマッチも解消に向かうと考えられる。少なくとも①については年収の壁を取り払うことで、短期間で就業者を増やすことが可能であり、③についても賃上げが実現すれば、就労はかなり進むはずだ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

バングラデシュ次期首相有力候補が帰国、来年2月に総

ワールド

北朝鮮の金総書記、今後5年のミサイル開発継続を示唆

ワールド

ブラジル大統領選、ボルソナロ氏が長男出馬を支持 病

ワールド

ウクライナ大統領、和平巡り米特使らと協議 「新たな
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story