コラム

アマゾンついにリアル市場へ 日本での提携先を大胆予想 !

2017年06月19日(月)17時23分

だが、ネット通販が社会に定着した今、日用品や生鮮食料品など、購買頻度が高い商品にシフトしていくことは自然の流れである。ただ、生鮮食料品は仕入れや商品展開などにおいて独特のノウハウを必要とする。自前で開拓を進めるよりも、既存のブランドを買った方が早いとアマゾンは判断したものと考えられる。アマゾンが今回の買収をきっかけに生鮮食料品をさらに拡大する戦略であることはほぼ間違いない。

狙うはすべての消費市場

ではアマゾンは、所得が高く、ITとの親和性の高い顧客に限定してリアル市場を開拓しようと試みているのだろうか。おそらくそうではないだろう。

アマゾンは今回の買収発表より少し前、お急ぎ便による配送ができたり動画が見放題になる有料会員(プライム会員)について、低所得者を対象に会費を半額に割り引く方針を明らかにしている。米国における生活保護の一種である食料配給権(旧フードスタンプ)受給者は、月額5.99ドルでプライム会員になることができる。

米国は日本で想像されるよりもはるかに福祉大国であり、生活保護(フードスタンプ)の受給者は4000万人を超える。安売りを得意とするウォルマートは、生活保護受給者からの売り上げが業績に大きく貢献している。アマゾンがこうした施策を打ち出しているという現実を考えると、最終的な狙いは、やはりマス・マーケット全体と考えてよいだろう。生鮮食料品や日用品についても、いずれ、すべての顧客層に対象を広げていくはずだ。

これまでアマゾンは、米国で確立した手法は、基本的にグローバル展開を試みており、地域ごとにローカライズを徹底するというスタンスには立っていない。だとするならば、日本市場でもいずれ、リアルな店舗との連動が模索される可能性が高い。

現時点においてアマゾンは何も発表していないので、筆者の勝手な推測になるが、アマゾンはどのような企業と組むのがベストなのだろうか。

日本ではコンビニと組むのか?

日本は米国とは異なり、コンビニという少々特殊な業態がメジャーになっている。コンビニという存在を抜きに日本におけるリアル店舗との融合は考えにくい。

コンビニでまず頭に浮かぶのはセブン-イレブンを展開するセブン&アイ・ホールディングスということになるだろう。同社はもともと大型スーパーであるイトーヨーカ堂を母体としており、コンビニとスーパーの両方をカバーする。またネットとリアルの融合であるオムニチャネルにも積極的で、ネットが持つ潜在力の大きさをよく理解している企業でもある(同社のオムニチャネルは残念ながらうまくいっていないが)。

ただ、セブンは日本の小売業のリーダーとなってしまっており、簡単には外部との提携ができない状況にある。経営体制をめぐるゴタゴタが続いたことや、イトーヨーカ堂の立て直しなど課題も山積で、大型提携を模索するタイミングとは言い難い。

コンビニ業界では、セブンに大きく水をあけられているファミリーマートやローソンの方が有力な提携先となるだろう。ファミリーマートはLINEとの連携を発表するなど、ネットを活用したマーケティングにかなり積極的だ。サークルKサンクスと経営統合したことで店舗数こそセブンに肉薄したが、収益力はまだまだである。経営統合はある意味で企業を変えるよいチャンスであり、リスクを取ってアマゾンと組むメリットは大きいはずだ。

【参考記事】実は福祉大国アメリカ 予算教書があぶりだした意外な素顔
【参考記事】ヤマト値上げが裏目に? 運送会社化するアマゾン

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story