コラム

日本でも世界でも、公共事業で整備された近代インフラは老朽化でもう限界

2025年02月14日(金)17時40分

だから下水は、言ってみれば文明の華。日本でも下水、高速道路、ゴミ処理場その他のインフラは高度成長の産物だ。これらを建設する「公共事業」は、1970年代初期のピーク時に予算の30%をも占め、財政投融資でさらにカネを足されて地方経済、そして政治家の集票マシンを支えた。この「列島改造」で地方は見違えるほど豊か、小ぎれい、そして便利になったのだ。

改修のための国債増発はもう限界

しかし2000年代に入り、小泉政権が「聖域なき構造改革」を唱え、公共工事の予算にも大ナタを振るう。公共工事は予算の10%程度に減らされ(現在は5%ほど)、財政赤字の縮小に一役買った。だが、これで景気はいっそう悪くなり、地方都市の街並みも今ではシャッターだらけになった。


加えて、当時建設されたインフラが劣化してくる。20年時点で、全国に1万あるトンネルの4割、72万カ所ある橋の1割が早急の修繕を必要としていた。事態は待ったなし。12年には山梨県で高速道路のトンネルの天井板が崩落し9人もの死者を出した。アメリカでもハイウエーの橋が老朽化で崩落し死傷者が出る事例が起きている。

しかし、改修も簡単ではない。まず資金が足りない。日本のインフラ改修には、最低でも年間5兆円の資金が必要とされているが、国債増発はもう限界。フランスのヴェオリア・エンバイロメントなど、上下水道事業を民間企業が請け負う例もあるが、利益が出ない事業に民間企業は乗ってこない。90年代にカリフォルニア州は発電など電力事業を自由化したが、エンロンなど企業が投資を惜しみ、停電が頻発したため、01年に自由化を撤回した。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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