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アングル:試される米消費の持続力、物価高に政府閉鎖や雇用情勢悪化で

2025年11月04日(火)16時09分

クリスマスツリーと買い物客。米マンハッタンで2023年12月撮影。REUTERS/Mike Segar

Howard Schneider

[ワシントン 3日 ロイター] - 米国経済を消費が支え続けられるかどうかが、今後数週間で試されるかもしれない。特にあまり裕福ではない世帯の財布が、生活費高騰や政府機関閉鎖による食料補助停止の可能性、雇用情勢悪化などで苦しくなっているからだ。

通常であれば11月は、感謝祭やクリスマスを控えて買い物や旅行などへの支出が増える傾向がある。

ところが今年は、折悪しく連邦政府機関が閉鎖されたため多くの家庭は食料補助制度の利用ができなくなる恐れがある上に、医療保険制度(オバマケア)関連の補助金が来年廃止された場合、医療費負担も増えるという事態にさらされている。

有力企業による一連のレイオフ発表、物価高、消費者信頼感の落ち込みも重なり、さすがに強力な米消費者の購買力が弱まってもおかしくない。

RSM USのチーフエコノミスト、ジョセフ・ブルスエラス氏は「米経済は30兆ドル規模のダイナミックで底力を持つ野獣だが、年末から年始にかけて試練を迎えるだろう。ワシントン発の政策ショックと過去4-5年にわたって労働者を囲い込んできた企業の行動変化が原因で、今までの企業行動は永遠に続くわけではなかった。失業率上昇という形でその影響が出てくる」と述べた。

<SNAP停止の影響>

政府機関閉鎖のため「補助的栄養支援プログラム(SNAP、旧称フードスタンプ)」の予算は11月1日に資金切れとなった。SNAPは、全米人口の12%近くに当たる4200万人弱の低所得者が利用している。

パンテオン・エコノミクスのチーフ米国エコノミスト、サミュエル・トゥームズ氏は、SNAPの提供がなくなれば多くの世帯が相当な困窮に陥るが、消費全体と国内総生産(GDP)に及ぼす影響は恐らく比較的小さく、年間1000億ドル前後だろうとの見方を示した。

しかしSNAPは、政府閉鎖で10-12月期に利用できなくなるさまざまな政府プログラムの1つに過ぎない。

また少なくとも十数の州はSNAPの代わりの支援措置を計画しているものの、それらはSNAPが毎月提供する規模に比べるとはるかに少ない。南部のテキサスやフロリダといった大人口を抱える州は代替支援策を発表していない。

<二極化と購買層縮小>

米国の消費に下押し圧力が増す結果として、必ずしも景気後退に突入するわけではない、というのがエコノミストの見立てだ。ただブルスエラス氏は、政府閉鎖によって第4・四半期成長率は1ポイント押し下げられ、1%に鈍化する可能性があると試算する。

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は10月下旬の連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で、これまでは個人消費が数々の悲観的予想を覆し、経済成長を支え続けてきたと指摘しつつも、高所得層が株高の資産効果などで旅行や高額品、飲食費などへの支出を維持する一方、低所得層には自動車ローンの債務不履行などのストレスや節約志向の兆候が見られる二極分化、いわゆる「K型消費」のパターンになっていると言及。FRBにとっては、高所得層の消費が今後も低所得層の脆弱さを帳消しにしてくれるかどうかが問題だと説明した。

こうした中で今後の情勢は厳しさが増す。

SNAPの問題以外にも、オバマケア対象の医療保険加入の際に中低所得者が保険料の一部を税額控除として補助される制度が失効期限を迎えている。野党民主党はこの制度の延長を新年度予算案に盛り込むべきだと主張し、暫定予算成立を優先する与党共和党との対立が、政府閉鎖の最大の原因となった。

カイザー・ファミリー財団の見積もりでは、保険料税額控除が打ち切られれば、オバマケアの保険加入者2000万人余りの年平均負担額が1000ドルないしそれ以上に膨らみかねないという。

JPモルガン・チェース・インスティテュートの調査から、消費の主体となる25-54歳の年齢層の足元の実質所得増加率が年3%から2%程度と、2007-09年の金融危機と景気後退の時期並みに鈍化したことが分かっている点も、消費下振れにつながる材料と言える。

ヤルデニ・リサーチのエコノミストチームによる最近の調査では、米消費者がクリスマス商戦期に支出を減らす意向が示され、さらにトランプ政権による不法移民の強制送還と入国制限を受けて支出する消費者の母集団そのものも減少する見通しだ。

同社寄稿編集者のジャッキー・ドハーティ氏は「今年の米国のホリデー(商戦期)は文字通り買い物をする人が減ってしまう。買い物をする人も支出は減らすと話している」と述べた。

ロイター
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