コラム

人呼んで「暗黒のプリンス」...エプスタイン事件で逮捕のマンデルソンとは?

2026年02月24日(火)19時42分
イギリスのピーター・マンデルソン元駐米大使

エプスタイン事件で疑惑のマンデルソン元駐米大使がついに逮捕(写真は2月14日) REUTERS/Chris Ratcliffe TPX IMAGES OF THE DAY

<自らが任命したピーター・マンデルソン駐米大使の問題で英スターマー首相も窮地に>

僕はしばらく前、イギリスのキア・スターマー首相についての記事を書き、彼が不人気な首相であることは理解できるものの、その不人気の度合いは奇妙だと述べた。われながら鋭くて思慮深い主張で、けっこう自分でも満足できる記事になった。

僕は彼の弱点と失態を列挙したが、どれも壊滅的なほどではないと主張し、次いで彼の長所をいくつか挙げた (彼は外交政策でうまくやっていた) 。


ところが諸々の事態が起こる間に、僕はこの原稿を送れなくなってしまった。まずは、人権派弁護士として名を馳せたはずのスターマーが、異様なごますり旅行をすべく北京を訪問した。

さらに今度は、ピーター・マンデルソン卿を駐米大使に任命したのがほかならぬスターマーだったため、彼の判断力が非難の的になっている。マンデルソンを任命したのは、通常なら特定の政党に所属しないキャリア外交官が就くはずの重要職に大物政治家を抜擢するという、いわゆる「政治任用」だった。

スターマーの論理によれば、マンデルソンのような経験豊富な政治工作員こそ、米トランプ政権を理解して影響力を行使できる最適の人物だろう、ということだった。それはそうかもしれないが、マンデルソンは不名誉ながら、英ブレア政権時代に2度も閣僚ポストを追われた。彼は信用できない人物だったのだ。世間の評判どおり卑劣な人物ともいえるかもしれない。

不祥事後も上級職で復活

マンデルソンは疑いようもなく賢くて熟練した政治家だった。そうでなければ、あんなに何度も復活を遂げられなかっただろう。彼は前回の労働党政権の時代に閣僚を務めた(不祥事による2度の辞任から復活を遂げた)。

労働党が下野すると、マンデルソンはブリュッセルのEU本部にポストを得た。親EU派の政治家が自国でキャリアがついえた時にもらえる、高給で選挙を通る必要もない「特別職」の1つだ(イギリス国民がブレグジットに賛成票を投じた数ある理由のうちの1つもこれだ)。

マンデルソンが人からどう見られているかは、「暗黒のプリンス」というニックネームからもうかがい知ることができる。それでもスターマーは、国を代表する重要な地位にマンデルソンを復帰させる決断をした。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国習主席、中東安定へ法の支配訴え 米イスラエルを

ワールド

英BP、第1四半期の石油取引部門は「極めて好調」に

ワールド

アングル:長期金利2.5%は通過点か、くすぶる日銀

ワールド

米イラン、今週中にイスラマバードで再協議の可能性=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ「EV撤退」が示す、日本が失った力の正体
  • 2
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 3
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相場で人気の優良株から売られる落とし穴
  • 4
    「いい加減にして...」ケンダル・ジェンナーの「目の…
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    トランプがまた暴走?「イラン海上封鎖」の勝算
  • 7
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 8
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 9
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 10
    BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音楽市場で…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story