コラム

通貨安に動揺しなくていい理由

2022年10月20日(木)12時35分

極端な通貨変動は問題だが、究極的には変動通貨は望ましいもの。自己修正のメカニズムだからだ。弱い通貨は弱体化した経済のカンフル剤になる。固定通貨は定義上は過大評価か過小評価されている傾向があり、経済にマイナスの結果をもたらす。

単一通貨ユーロについて言えば問題の1つは、より弱い経済(ポルトガルやギリシャ)とはるかに巨大で強靱な経済(ドイツ)が一緒くたにまとまっていること。その結果、より小規模経済の国にとっては通貨が分不相応なほど高くなってしまっている。ポンド安は良い兆しではないが、経済が成長せず通貨切り下げすら不可能な方がもっと状況は深刻だろう。

人々の通貨への関心は短期的でもある。1週間で急激な下落をすれば気にかけるが、その後数カ月かけてじわじわと戻したとしても気に留めない。これはたとえばブレグジット(イギリスのEU離脱)後にも起こった。

最近、僕は日本人旅行者が「円安」について話しているのに遭遇した。僕は思わず口出しをしそうになったが、「あまりに長く続いた例外的な円高が徐々に終わりに向かっていっただけ」とハキハキ説明できそうもないのでやめておいた。

僕は1ポンド=250円の時代に日本に暮らしていたし、1ポンド=130円の時代に再び日本に旅行した。そんな僕にとって、現在(1ポンド=166円)は「やや円高」という印象。でもその若い日本人旅行者にとっては、「平常」と思っていた頃と比べて円は弱いのだろう。

非合理性は僕自身にも当てはまる。僕が日本に住んでいた頃、円で給料の支払いを受け、その貯金をポンドに換えていた。だから円高になるほど、僕の暮らし向きは向上したわけだ。でもラッキーと思うどころか、僕は惨めでケチな気分になった。心の中で常にポンド換算して考えていたから、日本でお金を使うたびに耐え難い気分になったのだ。僕がもっと合理的だったら、多少の円を日本で費やしても、より多くのポンドを貯金できているんだから幸運だ、と考えられたことだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ4月石油輸出、9カ月ぶり低水準 シェブロ

ワールド

米国の対中貿易制限リストに間違い散見、人員不足で確

ワールド

ケネディ米厚生長官、ワクチン巡り誤解招く発言繰り返

ビジネス

欧州不動産販売、第1四半期11%減 トランプ関税影
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story