コラム

イギリスの半数はEU離脱を望んでいないのに、なぜジョンソンが大勝したのか

2019年12月16日(月)17時50分

このように、EU残留派にとっては、投票対象になる党が細かく分散してしまっていたことが、惨敗の原因の一つに挙げられるのだ。

それでは、残留派は本当に団結しなかったのだろうか。

残留派の連帯はいかに挫折したか

残留派は団結できなかったのかというと、そんなことはない。

残留派は、「People's Vote」という組織化された団体の名の元に集まっていた。ウェストミンスター宮殿の隣の塔で最大70人の従業員を雇用し、全国の何百人ものボランティアが働いていたという。

寄付金も多かった。億万長者のジョージ・ソロスから50万ポンド、ファッションブランドのスーパードライの創設者から100万ポンド、そしてサポーターから毎月数十万ポンドを受け取っていた。

数十万人の規模のデモ参加者を動員することには、3回成功した。有名人たちも、サッカーから歌手、作家まで、多くの人たちがこの運動を支えていた。

元首相のトニー・ブレア(労働党)も、同じく元首相のジョン・メージャー(保守党)も、党派を超えて参加していた。

フィガロ紙に、大変興味深い証言がある。People's Voteの頭脳の一人で、ブレア首相(当時)のメディア担当アドバイザーだったアラステア・キャンベルの言葉だ。

「野党が早期選挙を受け入れたのは大きな間違いでした。効果的な戦略はあったのですが、まだ戦いの準備はできていませんでした。(半分以上の投票がなくても議会で過半数がとれる小選挙区制の総選挙と違って)、国民投票に勝つには50%以上の得票が必要なんです」。

そして「総選挙では、党は共通の大義や目的をもとうとするよりも、伝統的な政党間の競争を再開するのです」と述べている。

残留派と離脱派は、保守党の中にも労働党の中にもいた。党で分かれていたわけではない。ここがブレグジット問題の、最も難しい点であった。ブレグジット問題は、国家の命運を左右する問題だったにもかかわらず、従来の党派単位ではなく、全市民に横断するテーマだったのだ。

しかし、現代の民主主義の政治は、政党政治である。議会は党単位で運営される。選挙では党が巨大な力を持つ。立候補者や議員は、党本部の顔色をうかがっている。

だからこそ、「親EU」「EU残留」という新しい党をつくる動きが出てきた。労働党から4人、保守党から1人の5人の議員が「独立グループ」(The Independent Group)という新党をつくったのだ。後に「Change UK」という名前に変えた。

しかし、この試みはうまくいかなかった。旧来の党派を超えて、親EUの議員たちを新党のもとに結集しようとする試みは、失敗に終わった。「足元の草を刈られる」状況になったという。創設メンバーの何人かは、明確に親EUを掲げる自由民主党(以下自民党)にうつった。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story