コラム

イギリスの半数はEU離脱を望んでいないのに、なぜジョンソンが大勝したのか

2019年12月16日(月)17時50分

保守党を大勝に導いたのはジョンソン首相の剛腕なのか?(12月14日、支持者に演説) Lindsey Parnaby/REUTERS

<2016年の国民投票のとき、残留支持は48%にのぼった。今では残留のほうが離脱より優勢だ。それなのに、ジョンソン首相率いる保守党の圧勝によって離脱が不可避になった。悲劇は日本でも起こり得る>

12月12日に行われたイギリス総選挙の最終結果が発表された。

保守党 365議席(+47)
労働党 203議席(-59)

保守党の圧勝である。余裕で過半数の326議席を超えた。労働党の約1.8倍の議席となっている。

3年半前の国民投票では、約48%の人がEU残留を支持した。選挙直前の12月7日のDeltapollsの世論調査によると、再国民投票があった場合の投票は、残留が45%、離脱が39%、わからないが16%だった(ただし、「再国民投票を望むか」という質問では、望まない人のほうが多い)。
ここ数ヶ月の傾向では、ほとんどすべての世論調査で、離脱よりも残留のほうが上回っている。

それなのに、なぜジョンソン首相が大勝し、EU残留派は負けてしまったのか。政党と国民的な運動に注目しながら、理由を考えたい。

小選挙区制の問題:保守党は過半数に届いていない

まずは、事実を正しく把握する必要がある。

第一の理由に挙げたいのは、小選挙区制の問題である。

イギリス市民の意志を正確に把握するには、得票率を見る必要がある。

◎得票率

保守党 43.6%

労働党 32.1%

──保守党は過半数に届いていないのだ。

さらに、得票数を見てみたい。

◎得票数

保守党 1369万6451票

労働党 1026万9076票

2大政党だけ見るなら、保守党の投票数は、労働党の約1.36倍である。それなのに議席数では、約1.8倍もの差がついている。

これは死に票を大量に出す、小選挙区制の弊害である。この方式は、本当に民意を反映した議席配分と言えるのかどうか。日本も他人事ではない。

ル・モンド紙の元ロンドン特派員フィリップ・ベルナールは「もしブレグジット問題が、総選挙ではなく、再国民投票だったなら、結果は違ったものになっていたかもしれません」と語る。

「コービン党首が率いる労働党は、1935年の選挙以来、最悪の敗北を経験しました。しかし矛盾があります。離脱の賛成票(保守党とブレグジット党)の合計は47%で、半数に届きません。逆に、半数を超える53%が、再国民投票に好意的な党でした(労働党、自由民主党、スコットランド国民党、緑の党)。イギリスの小選挙区制は、容赦なく小さな政党を粉砕します。親ヨーロッパ陣営は、その粉砕の犠牲者です」。

ちなみに、これを語るベルナール氏はフランス人だが、フランスの総選挙は、小選挙区制であるものの、有効票の過半数、有権者数の25%以上を得ないと当選できない。該当する候補者がいない場合は、1週間後に再び決選投票が行われる。有権者数の12.5%以上の得票を得た候補者だけが対象になり、相対多数を獲得した者が当選となる。このやり方のほうが、市民の選択をきちんと反映できる制度と言えるだろう。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story