コラム

イラクがこんな時期に「酒禁止法」可決の謎

2016年10月27日(木)20時40分

 この新法がどれほどの効果をもつのかは実際、動き出してみないとわからない。クルディスタンにこの法律が適用されなければ、クルディスタンからの酒の密輸(?)が増えるだけで、クルド人を利するだけだとの意見もある。酒が地下化すれば、かつての米国の禁酒法時代のように闇経済が横行し、犯罪が増加する可能性もあるし、また質の悪い密造酒が流通すれば、健康被害も出てくるかもしれない。

 ツイッター上では「منع_الخمور_في_العراق#」(イラクで酒禁止)というアラビア語のハシュタグでたくさんのツイートが現れている。その大半は法律に否定的である。

 現在、酒が完全に禁止されているのはイスラーム諸国のなかでもサウジアラビアやクウェートなどほんのわずかである。多くの国ではホテルなど特定の場所に限定したり、ムスリムにだけ禁酒を適用したりしている。実は厳格なイスラーム共和国のイランですら、非イスラーム教徒の飲酒は許されているのだ。またサウジアラビアでも全面禁酒になったのは1952年で、それ以前は比較的自由に酒が飲めたといわれている(クウェートの全面禁酒は1964年)。イラクははたしてどこに向かおうとしているのだろうか。

【参考記事】死と隣り合わせの「暴走ドリフト」がサウジで大流行

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プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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