コラム

フェイスブックのコンテンツ監視員の職場は「搾取工場」――元監視員が激白

2019年06月25日(火)15時45分

フェイスブックに投稿される膨大な数の暴力コンテンツの監視は今も人間が行っている Dado Ruvic-REUTERS

<幼女虐待、動物虐待、暴力また暴力──毎日、死と苦痛を見続け、クビにならないために不潔なトイレに行くのさえ我慢する。人と人をつなげるフェイスブックの理念はここにも見当たらない>

米国で、米フェイスブックが新たな批判の的になっている。米テック系メディア「バージ」がフロリダ州タンパ市勤務の元フェイスブック・コンテンツ監視員の告発を受け、6月19日、彼らがいかに劣悪な労働環境に置かれているかを報じたのだ。スキャンダルにあえぐフェイスブックに追い打ちをかけるかのように、主流メディアなども一斉に後追い報道に走った。

タンパのオフィスを運営しているのは、フェイスブックからコンテンツ監視業務を委託された米ITサービス大手のコグニザント・テクノロジー・ソリューションズだが、元監視員のメリンダ・ジョンソン氏がバージとのビデオインタビュー(19日付)で語ったところによると、同職場はアメリカにおける「スウェットショップ(搾取工場)」そのものだという。

動物・幼児虐待、児童ポルノ、殺人など、一日に何百本もの投稿動画をチェックし、その有害度や危険性、削除や配信無効の判断を素早く行うコンテンツ監視業務がPTSD(心的外傷後ストレス障害)の発症リスクを高め、つらい仕事であることは、これまでも米メディアが報じてきた。

残酷動画を見過ぎて精神を病む

バージも今年2月、コグニザントが南部アリゾナ州フェニックスで運営するオフィスの過酷な実態をすでに報じている。だが今回は、ジョンソン氏をはじめ、タンパ・オフィス勤務の元監視員3人がコグニザントとの守秘義務契約を破り、自分の言葉で世界に訴えたいと、バージにアプローチ。コグニザントによる不適切な人事管理も含め、「toxic environment=劣悪な環境」(23歳のショーン・スピーグル氏)が当事者の口から生々しく語られたことで、世間に大きな衝撃を与えた。担当記者のケーシー・ニュートン氏もスピーグル氏とともにニュース番組に登場するなど注目を集め、同報道を「賞に値する記事」と評する声もある。
 
スピーグル氏がバージに語ったところによると、昨秋、コグニザントから解雇された同氏は、世界中から投稿される動物虐待などの動画を見ることで不眠や夜驚症に陥り、現在、PTSDの治療中だという。地面にたたきつけられ鳴き声を上げるイグアナと血の海を見て高笑いする子供たち。斧で顔を切断されるネコ。幼児にマリファナを吸わせる女性たち。マリファナの動画では国内当局への通報に一役買うことができたが、動画の言語の違いなど、さまざまな理由で多くの動画がそのままになっていることに義憤を感じたという。

プロフィール

肥田 美佐子

(ひだ みさこ)ニューヨーク在住ジャーナリスト。東京都出身。大学卒業後、『ニューズウィーク日本版』編集などを経て、単身渡米。米メディア系企業などに勤務後、2006年独立。米経済・雇用問題や米大統領選などを取材。ジョセフ・スティグリッツ、アルビン・ロスなどのノーベル賞受賞経済学者、「破壊的イノベーション」論のクレイトン・クリステンセン、ベストセラー作家のマルコム・グラッドウェルやマイケル・ルイス、ビリオネアAI起業家のトーマス・M・シーベル、ジム・オニール元ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長など、米(欧)識者への取材多数。元『ウォール・ストリート・ジャーナル日本版』コラムニスト。『週刊東洋経済』『経済界』に連載中。『フォーブスジャパン』などにも寄稿。(mailto:info@misakohida.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story