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マクロスコープ:自民総裁選、林氏への支持じわり拡大 「政界の119番」出動なるか

2025年09月26日(金)11時35分

 自民党総裁選で林芳正官房長官(写真)への支持が徐々に拡大している。9月18日、東京で撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Yoshifumi Takemoto Tamiyuki Kihara

[東京 26日 ロイター] - 自民党総裁選で林芳正官房長官への支持が徐々に拡大している。政権の安定を重視する一部の国会議員が林氏の手腕に期待し始めているからだ。小泉進次郎農林水産相や高市早苗前経済安全保障担当相に加え、林氏が決選投票に進んだ場合に備える動きも出てきた。

時の政権が窮地に陥った際、分野を問わず大臣ポストを引き受ける姿から、自身の誕生日にもちなんで「政界の119番」との異名もある。自民が衆参ともに少数与党となる中、「究極の119番出動」となるか。

<政策は岸田、石破政権を継承>

「経験と実績で未来を切り拓く」。24日に日本記者クラブで開かれた候補者による討論会で、最も訴えたいことを問われ林氏はこう述べた。政策面では岸田文雄、石破茂政権の路線を継承する方針で、すでに政権目標となっている「1%程度の実質賃金上昇の定着」などを訴えている。

ロイターが今月実施したインタビューでは、日銀の金融政策について「我々の考えとそう違わない金融政策をやっていただいている」と説明。2013年に政府と日銀で結んだ政策協定(アコード)に関しても「目標も共有され、私が(大蔵)政務次官をやっていたころに比べれば、いろんなレベルでの政策のすり合わせ、協調というのができている」と語った。

<林氏浮上の背景>

林氏への期待が集まる背景にはいくつかの理由がある。一つは安定感を求める声だ。官房長官になる以前から防衛相、農水相、外務相、文部科学相を歴任。不祥事などで辞任した大臣の後継として緊急登板することも少なくない。党内では「困った時の林芳正」と言われるほどだ。

また、衆参ともに少数与党に追い込まれた現状から直ちに衆院解散とはいかず、「知名度の高い小泉氏をこのタイミングで総裁に担ぐ必要はない」(参院幹部)との「小泉温存論」も林氏の支持につながっている側面がある。

米国のトランプ大統領が10月にも訪日する可能性がある中、小泉氏の外交面での経験不足も林氏への支持を押し上げる。

加えて、高市氏への国会議員の支持が思ったほど伸びていないとみられる点も林氏には追い風だ。これまでは小泉氏でなければ高市氏に太刀打ちできないとみる向きもあったが、今後の流れ次第では林氏が高市氏の票を上回る可能性も捨てきれないとの声もある。ある自民関係者は「小泉氏対林氏で決選投票になるかもしれない」と語った。

ただ、党員・党友票で比べれば小泉氏や高市氏が林氏を大きく上回るとの見方が大勢だ。実際、昨年の総裁選では高市氏が109票、小泉氏が61票と続くなか、林氏は大きく水をあけられた27票にとどまっている。経済官庁の幹部は「林氏は確かに安定感があるが、今回の総裁選は党員・党友票を無視できない。1回目の投票で大きな差が付けば仮に決選投票に進んでも林氏に集まる票は限定的なのでは」と話した。

<専門家、小泉氏有利も林氏の可能性指摘>

林氏の浮上について専門家はどう見ているのか。SBI証券・チーフ債券ストラテジストの道家映二氏は「現時点では小泉氏優勢にみえる」とした上で、「決選投票が小泉氏対林氏となった場合、小泉氏陣営と林氏陣営は高市氏という『共通の敵』がいなくなり党内の世代間抗争になる」と指摘する。

「44歳の小泉氏が総裁となれば60歳前後の議員は大臣になれなくなるかもしれない。この危機感が広がれば林氏が勝つ公算が大きい」とし、「金融市場としては林氏が勝つと財政緊縮のイメージで株は売られる可能性がある」と語った。

一方、政治評論家の田村重信氏(元自民党政調会長室長)は「最も有力なのは小泉氏だが、林氏には石破首相を支持した党員票がかなり乗る可能性がある」と説明。「林氏は閣僚をたくさん経験している安心感がある」と述べた。

総裁選には林、高市、小泉各氏の他に小林鷹之元経済安保担当相、茂木敏充前幹事長が立候補している。

(竹本能文、鬼原民幸 編集:橋本浩)

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