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マクロスコープ:自民総裁選、問われる野党戦略 小泉氏と高市氏で異なる距離感

2025年09月17日(水)15時52分

 9月17日、自民党総裁選(22日告示、10月4日投開票)で、各候補が描く野党との連携戦略に注目が集まっている。写真は国会議事堂。2014年12月撮影(2025年 ロイター/Yuya Shino)

Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto

[東京 17日 ロイター] - 自民党総裁選(22日告示、10月4日投開票)で、各候補が描く野党との連携戦略に注目が集まっている。自民、公明両党が衆参で過半数を割り込む中、多数派を構成できなければいくら政策を掲げても実現が見通せないからだ。

連携相手として本命視されるのは日本維新の会だが、小泉進次郎農林水産相、林芳正官房長官、高市早苗前経済安全保障担当相ら有力と目される候補と維新との距離感にはばらつきも見え隠れする。選挙期間中にどこまで具体的な連携戦略を示せるかが勝敗を左右しそうだ。

<小泉氏は蜜月アピール、林氏も接近強める>

維新の藤田文武共同代表は17日の記者会見で副首都構想や憲法改正、スパイ防止法などを例示し、「連立するか否かにかかわらず、我々は信念をもって政策を掲げている」と述べた。こうした政策への賛否が連立入りを判断する際の検討材料になるか問われ「当然なる」とも述べた。

総裁選で有力視される候補は、それぞれ野党との連携を模索している。

維新との距離が最も近いとみられているのは小泉氏だ。8月には維新代表の吉村洋文大阪府知事とともに大阪・関西万博を視察。小泉氏が吉村氏を「改革の魂をもった政治家だ」と持ち上げると、吉村氏が小泉氏を「改革を進めていく稀有な政治家の一人だ」と称賛するなど蜜月をアピールして見せた。経済官庁幹部は「小泉氏が総裁になれば秋の臨時国会中にも維新との連立が実現するのでは」と語る。

林氏も維新の馬場伸幸前代表との会食が報じられるなど接近を強めているとみられる。もともと石破茂総裁の下、森山裕幹事長と維新の関係は良好と言われた。石破政権を支えた林氏だけに、自民内には「林氏は経験も豊富。問題なく維新との連携交渉に臨めるだろう」(衆院議員)との声がある。

<高市氏は「パイプない」指摘も>

一方、高市氏と維新の関係は現時点では未知数だ。2023年、高市氏の地元・奈良県知事選で維新公認の新顔が当選。県連会長として指揮を執った高市氏が苦杯をなめた経緯もある。陣営の一人は「自民の意志がよくわからないうちは連立相手を決められない」。参院幹部は「高市氏に野党とのパイプはないのでは」と話す。

維新に加え、国民民主党も連携の候補になり得る。玉木雄一郎代表は16日の記者会見で、昨年12月に自公と結んだガソリンの暫定税率廃止と「103万円の壁」の178万円への引き上げに関する幹事長合意を引き合いに、「この約束をしっかり引き継ぎ、誠実に実現に向けて努力していただける方」の新総裁就任を求めた上で、「合意を守ってくれるかどうか、その中で信頼が生まれてくる」と含みをもたせた。

すでに立候補会見を開いている茂木敏充前幹事長は、維新と国民民主を名指しし早急に連立の拡大を目指す考えを表明した。小林鷹之元経済安保担当相は「政策の連携の先に連立の姿が見えてくる」と述べたものの、「自民のスタンスが固まる前の数合わせの連立は本末転倒だ」とした。

自民は昨年の衆院選と今年の参院選で連敗。衆参ともに自公過半数割れの状況だ。目下の経済対策はもちろん、来年度当初予算の編成を見据えても野党との連携は欠かせない。そもそも、仮に野党が結束すれば国会での首班指名で首相に選ばれない可能性すらある。

党総裁選管理委員会は17日、告示後に候補者による複数の討論会や東京・名古屋・大阪で演説会を開く方針を決めた。政策実現の前提となる野党との連携について、各候補がどこまで具体的な見通しをアピールできるかが焦点となりそうだ。

<「野党の政策との共通点に注目」と専門家>

野党との連携の見通しや組み合わせによる経済政策への影響について専門家はどうみているのか。

SMBC日興証券シニアエコノミストの宮前耕也氏は「今回の総裁選は1年前とは大きく意味合いが異なる。衆参ともに少数与党となり、野党の協力なしには予算案や法案が一つも通らない状況だからだ。総裁選でも各候補の政策がどの野党の政策と共通しているのかが注目される」とみる。

高市氏や小林氏が総裁になった場合、「積極財政路線で国民民主党との連携に向けて調整する余地があるように思われる。市場が財政拡張路線と見れば長期金利が上がり、株も短期的には上昇トレンドになるだろう」と指摘。ただ、「金利が急騰すれば財政懸念から株も下落に転じる可能性がある」とも話す。

小泉氏だった場合は「維新との連立も見えてくる。政権が安定すれば市場はポジティブに捉えるだろう」とする一方、「政策的に財政健全化と規制改革のどちらに注力するのかは見通せない。株の反応は現時点では不透明だ」と語る。

林氏は「維新、国民民主に加えて立憲民主党とも話ができるので、政権は安定しそうだ。政策的には石破政権の路線をある程度引き継ぐと思われるので、どちらかと言えば財政健全化路線を進めるのではないか」とし、茂木氏の場合は「維新と国民民主の両方を連立交渉相手に名指ししている。討論会で掲げる主張などがどちらの党により近いか注目したい」と述べた。

(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)

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