ニュース速報
ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジタル駆使し抗議活動

2025年01月19日(日)08時02分

1月14日、ケニアの民主活動家ボニフェース・ムワンギさんは過去何年にもわたって数え切れないほどのデモに参加してきたが、昨年6月と7日に行われた反政府デモはあらゆる期待を超える形になった。写真は2024年7月、政府の増税策に対する抗議活動で死亡したデモ参加者を追悼する行事に参加する若者ら。ナイロビで撮影(2025年 ロイター/Monicah Mwangi )

Nita Bhalla Bukola Adebayo Kim Harrisberg

[ナイロビ/ラゴス/マプト/ヨハネスブルク 14日 トムソン・ロイター財団] - ケニアの民主活動家ボニフェース・ムワンギさんは過去何年にもわたって数え切れないほどのデモに参加してきたが、昨年6月と7日に行われた反政府デモはあらゆる期待を超える形になった。

ムワンギさんが目にしたのは、力強く覚醒した若者たちがソーシャルメディアを駆使し、増税が盛り込まれた予算法案への抗議を呼びかけるという今までになかった展開だ。

「デモの動員に最も力を発揮したのはZ世代だった。彼らはTikTok(ティックトック)、インスタグラム、X上に存在し、街頭に出現した人々の大多数は若者だった」とトムソン・ロイター財団に語った。

ムワンギさんは「歴史上初めてケニア人が一つの目的、つまり予算法案撤回に向けて団結した。われわれは自分たちが持つ力に目覚め、説明責任や意義ある改革を要求する活動的な市民となりつつある」と胸を張る。

こうした抗議が実を結び、ルト大統領は評判の悪かった法案を取り下げ、閣僚を更迭したほか、無駄な支出の削減を約束せざるを得なくなった。

人口構成が世界で最も若いアフリカでは、根強い汚職や拙い政治運営、生活費高騰、失業率上昇などに不満を抱える若者が主導する政治活動が広がっている。

ケニアやガーナ、ウガンダ、ナイジェリア、モザンビークなどのZ世代やミレニアル世代が昨年相次いで抗議の声を上げ、今年もそうした活動はさらに強まりそうだ。

インターナショナル・クライシス・グループのアフリカ担当プログラムディレクター、ムリティ・ムティガ氏は、若者らの不満の一因として、食料と燃料の価格を押し上げたコロナ禍やロシアとウクライナの戦争による痛手からアフリカ経済がなかなか立ち直れない点を挙げた。

ムティガ氏によると、次第に自らの権利を認識し、インターネットを通じて改革を訴える力を増している若者世代には、社会全体への恨みのような感情も高まってきている。

同氏は「若者は両親世代よりも多くを求め、受け取る情報も増えている。彼らは政治面でより行動的になり、今年はデモが増加する可能性があると思う」と述べた。

<幻滅感>

アフリカは各大陸の中で最も人口増加率と若者の比率が高い。サハラ砂漠以南(サブサハラ)地域の人口の70%は30歳未満だ。

これらの若者の幻滅を、雇用機会の乏しさが助長している。国際労働機関(ILO)の調査では、サブサハラ地域の若者約5300万人の5人に1人余りは仕事や教育、職業訓練に全く縁がない。

24年にアフリカ13カ国の18歳から25歳までの5600人強を対象に実施した調査によると、回答者の4分の3は仕事を見つけるのが難しいと述べ、3分の2は政府の雇用創出に向けた取り組みに満足していないと訴えた。また5人に4人は汚職に懸念を持っているとも明かした。

こうした中で、若者が政府批判に動き始めるのは不思議ではない、と複数の専門家は話す。

ノルウェーのクリスチャンミケルセン研究所で上席研究員を務めるアスラク・オレ氏は、アフリカの若者はさえない経済成長や少ない雇用、多額の公的債務と緊縮財政に苛立ちを募らせていると指摘。その点から、公益ではなく私利私欲のために働いていると見なす政治家を糾弾していると説明した。

モザンビークでは昨年10月の大統領選で選挙管理委員会が与党モザンビーク解放戦線(FRELIMO)の候補が勝利したと発表すると、その後3カ月余りも49年わたる与党支配で生じた汚職や失業、生活費高騰への抗議デモが続いた。

ガーナでも昨年12月7日の大統領・議会選に先立ち、若者が街頭に集まって同国の債務危機や物価高に抗議した。

ある市民は、大統領選ではビジネスマン出身の新人候補に投票したと明かす。この新人が有力候補だったマハマ前大統領に勝てないと分かっていたが、今の政治にうんざりしており、デジタル経済を雇用創出や国家近代化の手段として考えられる政治家が出てきてほしかったと強調した。

<犠牲あっても>

若者の抗議活動には犠牲も伴う。

警官との衝突で何百人もが拘束されたり殺害されたりしたほか、行方不明者も少なくない。

ケニアでは複数の有力人権団体から、当局が警官による殺害事件を隠蔽(いんぺい)し、Z世代のデモ参加者が絡む誘拐や不法拘束について口をつぐんでいるとの非難が出ている。

同国国家人権委員会の記録では、昨年6―12月に起きたデモで消息が分からなくなったのは82人で、29人は今も行方不明、最低でも40人は殺害された。

モザンビークでもデモ隊と警官の衝突で少なくとも278人が殺害され、2000世帯余りは隣国マラウィで難民申請中だ。

それでもナイジェリアの活動家リニュ・オデュアラさんは、若者が立ち上がる動きが衰えることはないと言い切る。

Xで80万人を超えるフォロワーがいるオデュアラさんは「若者による抗議は愛国心や将来が良くなるとの期待から生じていて、犯罪ではない。改革と、私たちの正当な権利への要求だと見てもらう必要がある」と語り、若者の声を無視することは政府にとって大きな政治的リスクになると警告した。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中