ニュース速報
ワールド

アングル:AI洪水予測で災害前に補助金支給、ナイジェリアの新災害対策

2024年09月08日(日)08時02分

 9月3日、 アフリカ西部ナイジェリアで行われているのは、人工知能(AI)と従来型の現金給付支援を組み合わせて事前に洪水に備え、農家の被害を小さくするプロジェクトだ。写真は2022年10月、洪水被害に見舞われたナイジェリア・マクルディで、避難させた穀物を取り扱う市場関係者ら(2024年 ロイター/Afolabi Sotunde)

Bukola Adebayo

[ラゴス 3日 トムソン・ロイター財団] - アフリカ西部ナイジェリアで行われているのは、人工知能(AI)と従来型の現金給付支援を組み合わせて事前に洪水に備え、農家の被害を小さくするプロジェクトだ。アフリカで人口が最大のナイジェリアは気候変動の影響で洪水の発生が増えている。

北部アダマワ州の僻村で農業を営むサリフ・アリさんはこのプロジェクトに参加。2022年の洪水では発生前に警報が出て、準備のための資金が提供された。アリさんはトウモロコシの収穫を早め、種子や肥料を保管している納屋を丘の上に移動。水位上昇の対策として、仲間でお金を出し合ってカヌーも買った。

この試験的なプロジェクトは人道支援を行う非政府組織(NGO)の国際救済委員会(IRC)が米グーグル傘下の慈善部門グーグル・ドット・オーグと組んで進めている。衛星からの情報や過去の事例、川の水位など大量のデータを活用し、AIを駆使して洪水の予測モデルを開発する。22年の洪水では1450世帯が支援を受け、アリさんは450ドル(19万5000ナイラ)の現金給付を受けた。プロジェクトはその後拡大され、グーグルはIRCと非営利団体ギブダイレクトリーに460万ドルを提供している。

このプロジェクトは、AIを活用して洪水の発生を予測し、被災が見込まれる地域の農家に現金を提供して備えを促し、家屋の被害を最小限に抑えるというもので、アイデア自体は単純だ。

洪水の予測にはグーグルのAIツール「フラッド・ハブ」の予測と政府機関のデータを使う。フラッド・ハブは天気予報や衛星画像などの公開データを使い、最大7日前に洪水を予測する。

<食料安全保障>

国連の気候専門家によると、アフリカでは気候変動による気温上昇で降雨の量と頻度がともに増えており、ナイジェリアは異常気象によって食料安全保障が脅かされている。22年の洪水では複数の州で被害が発生し、77万ヘクタールの農地が被災。家屋数千軒が水没して600人以上が死亡し、少なくとも200万人が自宅から避難した。しかし被害はもっと甚大になってもおかしくなかった。

IRCの研究者は災害発生の数週間前に、洪水監視システムとナイジェリア気象庁から収集したデータで洪水を予測。地元当局とも連携し、住民に警告ビラを配布していた。

<支援の定義に変化も>

アダマワ州では、現金支給を受けた農家の半数以上が、支援金を使って作物を早く収穫し、貯蔵倉庫を高い場所に移し、食料を備蓄したと、IRCの評価報告書は総括している。

予測にはAIモデルである欧州連合(EU)の「グローバル洪水特定システム(GloFAS)」のデータも使われた。IRCは今後、フラッド・ハブの予測に他のさまざまなツールを組み合わせ、予測の精度をさらに高める計画だ。

IRCのエアベル・インパクト・ラブのクレア・クリンゲイン氏は、農家に行動を促す上で鍵になるのは予測の正確さだと指摘。過去には、予測の信頼性が低かったり、警報が出るのが遅すぎたりして農家や援助機関が準備を整えることができなかったことがあったという。

グーグル・ドット・オーグの「AI for Social Good(社会貢献のためのAI)」部門の責任者、アレックス・ディアズ氏はタイミングの重要性を強調。「警告が1日前に出れば命が助かるかもしれないが、5日から1週間前に出て洪水に備える現金もあれば、暮らしを守ることができる」と言う。

貧困層の携帯電話に現金を送る支援を行っているギブダイレクトリーも同じような取り組みをモザンビークで試験的に実施した。

ギブダイレクトリーのヴェラ・ルミス氏は、AIツールは気象関連データの収集における格差を埋めるのに役立ち、早期予測は支援機関による災害支援そのものの再定義を後押しすると見ている。ルミス氏は「従来の災害支援は発生後に行われるが、残念ながら現金給付や被災者への支援の到達に災害発生から数カ月かかることが多い」と指摘。こうした支援では「被災者の復興や生活の再建が非常に困難で、とりわけ洪水の場合は難しい」と言う。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

10月の世界EV販売は23%増の190万台、欧州・

ワールド

欧州委、安保強化へ情報専門部署設置検討 国際的緊張

ワールド

政府、非核三原則を政策方針として堅持=首相答弁巡り

ビジネス

米消費者保護当局、公民権時代の融資法を縮小へ=関係
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【銘柄】エヌビディアとの提携発表で株価が急騰...か…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中