アングル:AI洪水予測で災害前に補助金支給、ナイジェリアの新災害対策
9月3日、 アフリカ西部ナイジェリアで行われているのは、人工知能(AI)と従来型の現金給付支援を組み合わせて事前に洪水に備え、農家の被害を小さくするプロジェクトだ。写真は2022年10月、洪水被害に見舞われたナイジェリア・マクルディで、避難させた穀物を取り扱う市場関係者ら(2024年 ロイター/Afolabi Sotunde)
Bukola Adebayo
[ラゴス 3日 トムソン・ロイター財団] - アフリカ西部ナイジェリアで行われているのは、人工知能(AI)と従来型の現金給付支援を組み合わせて事前に洪水に備え、農家の被害を小さくするプロジェクトだ。アフリカで人口が最大のナイジェリアは気候変動の影響で洪水の発生が増えている。
北部アダマワ州の僻村で農業を営むサリフ・アリさんはこのプロジェクトに参加。2022年の洪水では発生前に警報が出て、準備のための資金が提供された。アリさんはトウモロコシの収穫を早め、種子や肥料を保管している納屋を丘の上に移動。水位上昇の対策として、仲間でお金を出し合ってカヌーも買った。
この試験的なプロジェクトは人道支援を行う非政府組織(NGO)の国際救済委員会(IRC)が米グーグル傘下の慈善部門グーグル・ドット・オーグと組んで進めている。衛星からの情報や過去の事例、川の水位など大量のデータを活用し、AIを駆使して洪水の予測モデルを開発する。22年の洪水では1450世帯が支援を受け、アリさんは450ドル(19万5000ナイラ)の現金給付を受けた。プロジェクトはその後拡大され、グーグルはIRCと非営利団体ギブダイレクトリーに460万ドルを提供している。
このプロジェクトは、AIを活用して洪水の発生を予測し、被災が見込まれる地域の農家に現金を提供して備えを促し、家屋の被害を最小限に抑えるというもので、アイデア自体は単純だ。
洪水の予測にはグーグルのAIツール「フラッド・ハブ」の予測と政府機関のデータを使う。フラッド・ハブは天気予報や衛星画像などの公開データを使い、最大7日前に洪水を予測する。
<食料安全保障>
国連の気候専門家によると、アフリカでは気候変動による気温上昇で降雨の量と頻度がともに増えており、ナイジェリアは異常気象によって食料安全保障が脅かされている。22年の洪水では複数の州で被害が発生し、77万ヘクタールの農地が被災。家屋数千軒が水没して600人以上が死亡し、少なくとも200万人が自宅から避難した。しかし被害はもっと甚大になってもおかしくなかった。
IRCの研究者は災害発生の数週間前に、洪水監視システムとナイジェリア気象庁から収集したデータで洪水を予測。地元当局とも連携し、住民に警告ビラを配布していた。
<支援の定義に変化も>
アダマワ州では、現金支給を受けた農家の半数以上が、支援金を使って作物を早く収穫し、貯蔵倉庫を高い場所に移し、食料を備蓄したと、IRCの評価報告書は総括している。
予測にはAIモデルである欧州連合(EU)の「グローバル洪水特定システム(GloFAS)」のデータも使われた。IRCは今後、フラッド・ハブの予測に他のさまざまなツールを組み合わせ、予測の精度をさらに高める計画だ。
IRCのエアベル・インパクト・ラブのクレア・クリンゲイン氏は、農家に行動を促す上で鍵になるのは予測の正確さだと指摘。過去には、予測の信頼性が低かったり、警報が出るのが遅すぎたりして農家や援助機関が準備を整えることができなかったことがあったという。
グーグル・ドット・オーグの「AI for Social Good(社会貢献のためのAI)」部門の責任者、アレックス・ディアズ氏はタイミングの重要性を強調。「警告が1日前に出れば命が助かるかもしれないが、5日から1週間前に出て洪水に備える現金もあれば、暮らしを守ることができる」と言う。
貧困層の携帯電話に現金を送る支援を行っているギブダイレクトリーも同じような取り組みをモザンビークで試験的に実施した。
ギブダイレクトリーのヴェラ・ルミス氏は、AIツールは気象関連データの収集における格差を埋めるのに役立ち、早期予測は支援機関による災害支援そのものの再定義を後押しすると見ている。ルミス氏は「従来の災害支援は発生後に行われるが、残念ながら現金給付や被災者への支援の到達に災害発生から数カ月かかることが多い」と指摘。こうした支援では「被災者の復興や生活の再建が非常に困難で、とりわけ洪水の場合は難しい」と言う。