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アングル:金融機関にも米技能ビザ見直しの波紋、高額手数料で初級職採用が困難に

2025年09月28日(日)07時52分

トランプ米政権は、専門技能を持つ外国人労働者向けの入国査証(ビザ)「H-1B」制度を見直す予定で、金融業界に多大な影響を与える可能性がある。2020年11月、ニューヨークで撮影(2025年 ロイター/Brendan McDermid)

Saeed Azhar Milana Vinn Tatiana Bautzer

[ニューヨーク 24日 ロイター] - トランプ米政権は、専門技能を持つ外国人労働者向けの入国査証(ビザ)「H-1B」制度を見直す予定で、金融業界に多大な影響を与える可能性がある。申請手数料を10万ドル(約1490万円)へ引き上げることも公表しており、採用に問題が生じる恐れがある。

金融機関はH-1B制度最大の利用者の1つだが、ハイテク企業ほど多くはない。政府統計によると、今年はこれまでに米国の上位10社の金融機関が約1万2000件のH-1Bビザを取得。JPモルガン・チェースが突出して多く、2440件を占めている。

あるアナリストは、費用の増大という観点において、金融機関への悪影響はハイテク企業よりも大きいとの見方を示す。

投資顧問アプタス・キャピタル・アドバイザーズの株式部門責任者デービッド・ワグナー氏は「H-1B制度の見直しで最も高いハードルに直面するのは金融機関かもしれない。多くのハイテク企業は過去最高水準の収益を計上しており、一時的な費用負担への耐性が大きい」と述べた。

<投資銀行業務への影響>

金融調査会社プロスペクト・ロック・パートナーズによると、H-1Bビザ所持者の多くはエンジニアリングおよびテクノロジー分野の職務に就き、銀行業務および金融業界に不可欠な企業活動に関与している。量的モデル、アルゴリズム取引、リスク管理やソフトウエア開発にかかわる投資銀行業務への影響が特に大きいという。

プロスペクトのマネージングパートナーであるメレディス・デネス氏は、10万ドルへの手数料引き上げにより、エントリーレベルのジュニアアナリストや金融系技術者の採用が事実上困難になると予想。「H-1B制度を利用したエントリーレベルの職種の採用はほぼ不可能になる」と述べた。

必要な人材を米国内で見つけることが困難な場合、金融機関は海外勤務者の採用を増やさざるを得なくなるかもしれない――モーニングスターDBRSの北米金融機関格付け担当マネージングディレクター、ティム・オブライエン氏はこうみている。

同氏は「想定外の結果として、特定の国際的な専門家がカナダなど米国以外の地域に配置される可能性がある」と述べ、「特定の技術関連業務を海外に移転させる企業も出てくるかもしれない」と付け加えた。

JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)はインドのメディアとのインタビューで、同社はこの問題を政策立案者と協議する予定であり、トランプ氏の発表には「誰もが不意を突かれた」と述べた。

トランプ氏によるH-1B制度の見直し案は、より高度な技能を持つ高所得労働者の優遇が目的だ。政府当局者は、このビザで企業による賃金抑制が可能になると指摘し、制限を強化すれば米国の技術系労働者にとって就職のチャンスが広がると説明している。

<代替手段を模索>

企業向けにM&A(企業の買収・合併)の助言を行う4大会計事務所(ビッグフォー)の一角でパートナーを務める匿名の人物に取材したところ、各種ビザプログラムを利用している従業員の割合を評価し、期限切れ後に人員をどのように補充するか検討する必要があると指摘した。さらに、新卒採用が多い若手社員の人件費を巡り、自らが勤務する会計事務所の事業や将来の採用計画に確実に影響が出るだろうとも述べた。

H-1Bビザを保有する従業員の平均給与をみれば、10万ドルの手数料が課されることで採用コストが跳ね上がる可能性があることが分かる。

政府統計によると、JPモルガンの社員で今年H-1Bビザを発給された2440人の平均給与は16万0567ドルだった。ゴールドマン・サックスでは、最近発給された労働者の平均給与は12万6495ドル、デロイトでは13万9704ドルだ。

このビザは通常3ー6年有効であり、10万ドルの手数料は新規申請者にだけ適用され、更新時には適用されないと政権は説明している。

プロスペクトのデネス氏は、別のビザ区分を利用したり、永住権(グリーンカード)の取得支援を加速させるという選択肢もあると述べた。

フラゴメン法律事務所のパートナーで、企業や銀行に助言する移民関連コンサルタントのボー・クーパー氏は「雇用主は米国での人材確保コストや影響を精査し、代替となるビザの選択肢や採用・配置戦略を検討する必要がある」との見方を示した。

ロイター
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