ニュース速報
ビジネス

焦点:中国株、信用買いが過去最大に 相場不安定化で警戒感高まる

2025年09月08日(月)11時59分

 9月5日、 中国株式市場ではこの週に信用取引融資残高が過去最大を記録した。香港の証券取引所前で2023年8月撮影(2025年 ロイター/Tyrone Siu)

Samuel Shen Rae Wee Qiaoyi Li

[シンガポール/上海 5日 ロイター] - 中国株式市場では5日の週、信用取引融資残高が過去最大を記録した。しかし規制当局が市場の過熱を抑える措置を検討しているとの報道で急激な相場調整が起こり、投資家は信用買いに神経をとがらせるようになった。

中国の金融システムは、デフレと根強い不動産債務危機を背景に何カ月間もリスクが高まった状態にあるが、足元の株式投資家の行動によって一段と圧力が強まりかねない。

5日の週の信用取引融資残高は過去最高の2兆3000億元(3215億5000万ドル)となった。投機筋の間では、消費者ローンで借りた資金を株取引に回す動きもみられる。

中国経済は低迷し貿易、地政学面で緊張がくすぶっているにもかかわらず、こうした流動性を原動力に上海株は8月最終週に10年ぶり高値を付けた。

しかしブルームバーグが規制当局が市場の過熱を抑える措置を検討中だと伝えると、有力企業300銘柄で構成するCSI300指数は4日に2%下落した。

北京に住むプログラマーのカシエル・ジャンさん(35)は、手軽に利益を出したいと考えて20万元を借りて株を買ったが、9月初週に市場が荒れて多くの銘柄が3―5%乱高下したことに少しショックを受けた。

「高値で利益を確定していない限り、傷を負い始めれば損切りすべきかどうかと迷う」とジャンさんは語り、「夜ぐっすり眠れるように」信用買いを減らすつもりだと明かした。

信用取引が膨らむことは中国では珍しくないが、個人投資家と規制当局が懸念を募らせている様子からは、バブルのリスクが浮かび上がる。

中国証券監督管理委員会(証監会)の呉清主席は8月最終週、「長期的で理性的なバリュー投資」を強く推奨することによって「市場の良いトレンドを固めていく」と表明した。

人工知能(AI)半導体設計大手、中科寒武紀科技(カンブリコン・テクノロジーズ)は8月に株式時価総額が倍増して6880億元に達していたが、9月4日には15%の暴落となった。

証券取引所のデータによると、カンブリコンの信用取引融資残高は100億元を超え、投機筋の間で最も人気のある銘柄のひとつだ。

UOB・ケイ・ハイアン(香港)の国際営業執行ディレクター、スティーブン・ルーン氏は、記録的な信用買いによって市場が危うさを増していると指摘。「市場沈静化措置が実施されれば、信用取引を利用している投資家が真っ先に退出を迫られるだろう」と語った。

<消費者ローンを転用>

中国政府は今月、消費者ローンの金利補助を開始する一方で銀行に同ローンのリスク管理強化を促している。しかし一部の株式投資家は、同ローンを使えばもうけられることに目を付けた。

ハイテク産業で働く個人投資家のジェームス・リューさんがその一人だ。消費者ローンの金利は3%前後と、信用取引融資金利の4ないし5%より低い。「だからもちろん、最初に銀行から(消費者ローンを)借りて」株式購入に回すという。

銀行は消費者ローンを株式購入に使うことを禁じているが、リューさんは複数の口座間で資金を移動させているので見つかる可能性は低いと語った。

一方、中国民生銀行や黒河農村商業銀行など、クレジットカード・ローンを投資に不正利用することに警鐘を鳴らす銀行が増えている。

ムーディーズはリポートで、景気低迷で消費者が財布のひもを締める中、「信用力の低い消費者が引き続き積極的に資金を借りており、貸し手の資産リスクが高まっている」と指摘した。

ただ、中国の浮動株時価総額に占める信用取引の割合は現在2.3%と、ピークだった10年前の4.7%を大幅に下回っている。

また、2015年の中国株式バブルを煽ったような個人投資家の浮かれ気分や、違法な影の銀行(シャドーバンキング)借り入れの兆候は乏しい。

マッコーリー・キャピタルの中国株ストラテジー責任者、ユージーン・シャオ氏は「政府は株式市場を支えたい意思を明確に示している」とした上で、「とは言え、政策当局者は2014―15年の信用取引バブルに似たバブルと崩壊のサイクルを警戒している」ため、「過度な投機フローは抑制するだろう」と予想した。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

国会議員への制裁、日中関係の観点からも遺憾 撤回申

ワールド

アフガン地震、支援に壁 タリバン規制で女性に医療届

ビジネス

日経平均は3日続伸、政策思惑が支援 TOPIX高値

ビジネス

三菱電機、退職金加算の時限制度を実施 募集人数は定
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給与は「最低賃金の3分の1」以下、未払いも
  • 3
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接近する「超巨大生物」の姿に恐怖と驚きの声「手を仕舞って!」
  • 4
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 5
    コスプレを生んだ日本と海外の文化相互作用
  • 6
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 7
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 8
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 9
    今なぜ「腹斜筋」なのか?...ブルース・リーのような…
  • 10
    「日本語のクチコミは信じるな」...豪ワーホリ「悪徳…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 5
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 6
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 9
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 10
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中