ニュース速報
ビジネス

アングル:トランプ氏批判の雇用統計、利下げ根拠になる皮肉な構図

2025年08月13日(水)18時23分

 8月12日、トランプ米大統領は7月の雇用統計が気に入らず、「改ざん」されたと主張して労働省・労働統計局(BLS)の局長を解任した。写真は2017年12月、ニューヨーク連邦準備銀行で撮影(2025年 ロイター/Eduardo Munoz)

Howard Schneider

[ワシントン 12日 ロイター] - トランプ米大統領は7月の雇用統計が気に入らず、「改ざん」されたと主張して労働省・労働統計局(BLS)の局長を解任した。しかし皮肉なことに、連邦準備理事会(FRB)幹部らは7月統計を景気減速の重要な証拠だと受け止め、この統計を根拠にトランプ氏が望む利下げに動く可能性がある。

トランプ氏が任命したボウマンFRB副議長は9日の講演で「最新の雇用統計により、労働市場の脆弱(ぜいじゃく)さと活力減退の複数の兆候が確認された」と述べ、「行動(利下げ)が遅れれば労働市場環境が悪化し、経済成長が一段と減速するリスクがある」と続けた。

労働市場が悪化する兆候は、FRBに利下げをさせるというトランプ氏の望みの達成につながる可能性がある一方、自身の減税や移民政策、通商政策が成長を押し上げている、という主張には逆行するものだ。

7月の連邦公開市場委員会(FOMC)で、金利据え置きに反対票を投じて即時利下げを主張したのはボウマン氏と、やはりトランプ氏が指名したウォラー理事の2人だけだった。しかし金融市場は現在、9月16―17日の次回FOMCで85%以上の確率で利下げが決まることを織り込んでいる。

BLSが12日発表した7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.7%の上昇と、伸びは6月から横ばいだった。ガソリンと食品の価格低下が上昇を抑えた。しかし食品とエネルギーを除くコア指数は前年同月比3.1%上昇と、6月の2.9%上昇から加速。コアCPIを押し上げたのは、医療や航空旅行を含むサービス価格と、関税に関係している可能性がある家具や中古車の価格だった。

CPIの発表後、金融市場では9月と12月のFOMCで利下げが決まるとの見方が維持された。

トランプ氏は11日、新たなBLS局長に保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」のチーフエコノミスト、E・J・アントニー氏を指名した。経済・投資界はこの人事について、トランプ氏によるパウエルFRB議長後任選びと同じくらい強い関心を持って注視するだろう。金利、株価、政治の命運を左右しかねないデータの信頼性にかかわってくるからだ。

FRB幹部らは最近、BLSの統計を補完し、クロスチェックする方法に言及している。

セントルイス地区連銀のムサレム総裁は先週、金融政策担当者が政府機関データと併せて「政府の統計機関が集計するデータ以外の数多くのデータにも注目する。さまざまなデータを突き合わせ、どれも同じストーリーを語っていることを確認する」と述べた。

「われわれは自らの職務を続けていけると私は確信している。(中略)われわれは、全米の企業および家計との直接的なやり取りを通じて経済とつながっている。データに加え、印象に基づく強い経済観も有している」という。

<クロスチェック>

BLSが今後も不安定な状況を続けたとしても、FRBが経済動向を把握するためのデータには事欠かない。

ここ数年で民間データが劇的に増えたほか、人材採用サイトやスマートフォンの位置情報、オンライン価格などを通じ、客足や物価、求人、採用をほぼリアルタイムで測定する手法も充実してきた。

米供給管理協会(ISM)などの団体が物価について重要な洞察を提供している上、ミシガン大、全米独立企業連盟(NFIB)、コンファレンスボードなどのアンケートから、インフレ期待、採用、全般的な経済見通しが読み取れる。

また行政記録は実際の出来事の集計を示すため、重要なバックアップデータとなる。失業保険の申請件数は、各州が毎週報告したものを労働省が集計して発表する。一方、BLS「四半期雇用・賃金調査」のような企業調査データは遅延があるものの、月次雇用者増加数の推計値の最終的な検証材料となる。

FRBも独自のデータ収集を行っており、これには最高財務責任者(CFO)など企業経営者へのアンケートや、地区連銀経済報告(ベージュブック)の基礎となる非公式だが広範な聞き取り調査が含まれる。

ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は先週のCNBCインタビューで、BLSのような機関がデータを操作しようとしても失敗に終わると指摘した。

「経済の現実を偽装することはできない。(中略)だれかの政治的利益のために数字が偽装されていると想像してみよう。人々は自分たちが感じるものを目にする。企業は採用するかしないかであり、それによって国民は経済状態を目にする。インフレは現実ではないと国民を説得しても効果はない。雇用の数字は実際より良いのだと納得させるのは無理だろう」と語った。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:日本株の「ニューノーマル」、PER20倍

ビジネス

中国銀行融資、7月は20年ぶり減少

ワールド

IEA、今年の石油供給予想を上方修正 OPECプラ

ビジネス

アングル:米国で法整備進むステーブルコイン、導入の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が教える「長女症候群」からの抜け出し方
  • 3
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...気になる1位は?
  • 4
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 5
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 6
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 7
    【徹底解説】エプスタイン事件とは何なのか?...トラ…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    トランプ「首都に州兵を投入する!」...ワシントンD.…
  • 10
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 1
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 2
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの母子に遭遇したハイカーが見せた「完璧な対応」映像にネット騒然
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 5
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 7
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 8
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 9
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中