ニュース速報
ビジネス

アングル:中銀の国際的気候変動対応、FRB「脱落」が冷や水

2025年01月24日(金)11時07分

1月20日、各国中央銀行が気候変動対策のために協力する取り組みが、重大な壁に突き当たっている。写真はワシントンのFRB本部で2022年1月撮影(2025年 ロイター/Joshua Roberts)

Francesco Canepa Virginia Furness

[フランクフルト 20日 ロイター] - 各国中央銀行が気候変動対策のために協力する取り組みが、重大な壁に突き当たっている。米連邦準備理事会(FRB)が17日に「気候変動リスクに係わる金融当局のネットワーク(NGFS)」からの脱退を発表したからだ。

FRBは脱退理由としてNGFSの活動が「広範囲に及ぶようになり(FRBの)法定義務の領域外に広がっている」点を挙げた。

2017年に立ち上げられたNGFSは、気候変動が実体経済や金融セクターに与える影響を監督当局が計測する際に使用する気候シナリオなどを盛り込んだ報告書を策定するのがこれまでの主な役割だった。

ただFRBの脱退が化石燃料を推進するトランプ米大統領就任直前のタイミングだったことや、ウォール街で気候変動対応への反発が広がっている事態を踏まえると、環境問題にとって政治面で逆風が吹き始めたことが分かる。

ブリュッセル自由大学のソルベイ経営大学院で経済学教授を務めるギュントラム・ウォルフ氏は「気候変動の金融上の重要性は高まり続けている。そして最も大事な中銀が政治の風向きの変化に膝を屈している」と嘆く。

NGFSは声明で引き続き「かつてないほど強い決意と熱意」を持っていると強調し、FRBは運営委員会のメンバーではなかったと付け加えた。

FRBが脱退した今、143の中銀・金融規制当局が加盟するNGFSで最も存在感と影響力が大きいのは欧州中央銀行(ECB)となった。

ECBはラガルド総裁の下で、債券購入の一時的修正を通じた金融政策運営と、ユーロ圏20カ国の大手行監督者という2つの側面に気候変動の要素を取り入れている。

<ECBには批判も>

気候変動問題に積極的に対応するECBの姿勢を巡っては、欧州の一部政治家や、中銀関係者からさえ批判の声が出ている。

シンクタンク、サステナブル・ファイナンス・ラブのスタニスラス・ジュルダン氏は、こうした懐疑論はFRBのNGFS脱退で勢いづくかもしれないとの見方を示した。

そうした中でジュルダン氏は「FRBに関するこのニュースは、欧州でグリーン移行に賛同する政治勢力の目を覚まさせ、ECBの気候変動対応を応援することになるはずだ。政治的支持が強まれば、グリーン金利などのより先行的な政策を強化できる」と述べた。

グリーン金利とは、環境への負荷が小さい事業に融資する金融機関に対してECBからの借り入れコストを軽減する措置を指す。

これまでのECBの取り組みは借り入れコストには大した影響を及ぼしていない。ECBの事務方が2018年から22年までに調べたところでは、ユーロ圏で最も環境を汚染している企業が支払った借入金利の平均は、最もクリーンな企業の支払い水準をわずか14ベーシスポイント(bp)しか上回らなかった。

欧州議会から委託され、23年に公表された学術論文では、ECBは気候変動対応で「限定的な役割」しか果たしておらず、グリーン移行支援はインフレ抑制の使命と衝突するかもしれないことが分かった。

ECBを監督する欧州議会の経済問題委員会が先週承認した報告書の素案には、気候変動に特化した銀行へのストレステスト(健全性審査)を歓迎するものの、金融政策運営に際しては「できる限り非政治的」な姿勢を維持すべきだと記されている。

それでもサステナブル事業のコンサルティングを行うリ・パターンのジェームズ・バカロ最高経営責任者(CEO)は、ECBは環境問題で主導的な立場を取り続けるべきだと主張。「(ECBが)後戻りする論理的な理由は存在しない。(気候変動リスクの管理は)欧州経済と金融安定にとって大事だ」と訴えた。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏「ウクライナ抜きの和平協議不可」、サ

ワールド

イスラエル、ヨルダン川西岸の難民キャンプを破壊 一

ワールド

米ロ、ウクライナ和平への道筋模索で合意 サウジで高

ビジネス

物言う株主、USスチールに文書開示要求 日鉄買収問
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 2
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「20歳若返る」日常の習慣
  • 3
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防衛隊」を創設...地球にぶつかる確率は?
  • 4
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 5
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 6
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 7
    祝賀ムードのロシアも、トランプに「見捨てられた」…
  • 8
    ウクライナの永世中立国化が現実的かつ唯一の和平案だ
  • 9
    「レアアース」と軍事支援...米国・ウクライナの危う…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 2
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 3
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン...ロシア攻撃機「Su-25」の最期を捉えた映像をウクライナ軍が公開
  • 4
    【徹底解説】米国際開発庁(USAID)とは? 設立背景…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 8
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 9
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 10
    2025年2月12日は獅子座の満月「スノームーン」...観…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 9
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中