ニュース速報
ビジネス

アングル:テスラ運転支援技術、規制すり抜けライドシェアで急拡大 安全懸念も

2024年10月05日(土)08時41分

 10月3日、米ネバダ州ラスベガス郊外で4月、ライドシェア大手ウーバーが運行する米テスラ車が乗客を乗せた状態で、SUV(スポーツタイプ多目的車)と交差点で衝突する事故が発生した。写真は2022年7月、ロサンゼルスの空港で、ウーバーのライドシェア車に乗り込む乗客(2024年 ロイター/David Swanson)

Akash Sriram Abhirup Roy

[3日 ロイター] - 米ネバダ州ラスベガス郊外で4月、ライドシェア大手ウーバーが運行する米テスラ車が乗客を乗せた状態で、SUV(スポーツタイプ多目的車)と交差点で衝突する事故が発生した。テスラ車には同社の高度な運転支援システム「フルセルフドライビング(FSD)」が搭載されていたが、衝突を回避できなかった。

米国の都市部ではライドシェアのドライバーの間でFSDの利用が急速に広がっている。しかしFSDは完全な自動運転ではなくドライバーの監視が必要なシステムに分類されており、自動運転に関する厳格な規制の適用を免れる。ラスベガスの事故からは自動運転タクシー「ロボタクシー」業界が自動運転規制の曖昧さにつけこんでいる実態が浮かび上がってくる。

折しもテスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は10日にロボタクシー計画を披露する予定だ。マスク氏は以前から個人所有の自動運転車で構成するタクシーネットワークの構想を温めてきた。

しかしロイターがライドシェアドライバー11人に取材したところ、この業界でFSDのソフトウエアが使われ、マスク氏の構想に近い仕組みが既に生まれていることが分かった。FSDのソフト使用料は月額99ドル(約1万4500円)。多くのドライバーは、ソフトに制限があるのは分かっているが、運転のストレスを軽減し、長時間働けるため収入が増えるから使用していると証言した。

アルファベット傘下のウェイモやゼネラル・モーターズ(GM)傘下のクルーズといったロボタクシー事業者が投入した、ドライバーが支援するロボタクシーの試用版は厳しい規制下にある。一方、州や連邦当局によると、テスラについては運転支援ソフトが使用されているか否かにかかわらず、ドライバーが車両に対して全責任を負う。ウェイモやクルーズのソフトウエアは完全自動運転に分類されるが、テスラのFSDはドライバーの監視が必要なレベルとされているからだ。

警察の報告書によると、4月のラスベガスの事故はSUVの運転手が優先権を譲らなかったことが原因だった。テスラ車のドライバーはFSDを使い、ハンドルに手を置かずに時速74キロほどで走行していたが、別の車両の陰からSUVが表れても車は減速せず、ぎりぎりになってドライバーがハンドルを操作して被害を最小限に抑えた。

テスラ車のドライバーはFSDの使用について証言したが、その後はコメント要請に応じていない。テスラもコメント要請に応じなかった。ウーバーの乗客やSUVの運転手に接触することはできなかった。

ライドシェアリング企業のウーバーとリフトは、FSDに関して質問したところ、安全の責任を負うのは運転手だと回答した。

<壮大な野望>

マスク氏はFSD製品の基礎となる自動運転ソフトについて壮大な計画を抱いている。テスラの顧客が所有する車で、利用されていない時間帯にロボタクシーサービスを提供するという構想だ。

しかし取材に応じたドライバーは、突然の加速やブレーキの発生など、この技術に重大な欠陥があると述べた。空港の送迎や駐車場、工事中の道路の運転など、複雑な状況での使用をやめたドライバーもいた。

ロサンゼルスのライドシェアドライバー、セルジオ・アヴェディアンさんは「FSDを使っているが100%安心しているわけではない」と語り、乗客を乗せている時にはFSDを利用していない。

FSDは連邦政府によって「部分自動化」の一種に分類され、ハンドル、アクセル、ブレーキがFSDで運行されている間もドライバーは完全に運転に集中し、注意を払うことが義務付けられている。FSDをライドシェアで使用することは違法ではない。

米道路交通安全局(NHTSA)はラスベガスの事故について把握しており、テスラに追加情報の提供を求めた。規制強化やガイドラインに関する具体的な質問には回答しなかった。

カリフォルニア、ネバダ、アリゾナの州当局は、FSDや類似のシステムはロボタクシーや自動運転車(AV)規制の範囲外であり、規制の対象ではないと説明した。ラスベガスの事故に関してコメントはなかった。

専門家によると、テスラ、ウーバー、リフトは、運転手がライドシェアサービスの提供中にFSDを使用しているかを確認する手段を持っていない。

米道路安全保険協会(IIHS)のデビッド・キッド氏はテスラの技術について、安全性の観点から多くの懸念が生じているとしつつ、機能を高く評価。NHTSAは新たな規制を作るのではなく、こうした技術の誤用を防ぐ基本的な、拘束力のない指針を検討すべきだと訴えた。

一方、ジョージメイソン大学の自律ロボティクスセンターのセンター長で元NHTSAのアドバイザーだったミッシー・カミングス氏は、連邦当局が監視を行うためにFSDだけでなく全ての運転支援技術がライドシェアドライバーによってどのように使われているかを正式に調査する必要があるとの立場。「ウーバーとリフトが賢明なら、こうした技術の使用を禁止するだろう」と述べ、運転支援技術の利用拡大には慎重な姿勢だ。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米最高裁、教育省解体・職員解雇阻止の下級審命令取り

ワールド

トランプ氏、ウクライナに兵器供与 50日以内の和平

ビジネス

米国株式市場=小反発、ナスダック最高値 決算シーズ

ワールド

ウへのパトリオットミサイル移転、数日・週間以内に決
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中