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アングル:国内勢が過去最大の対外投資、拭いきれぬ円の先安観

2024年09月09日(月)18時46分

8月の円高局面で、日本の機関投資家が過去最大の対外証券投資に動いていたことが、外為市場で話題となっている。写真は円紙幣。東京都内で2013年2月撮影(2024年 ロイター/Shohei Miyano)

Shinji Kitamura

[東京 9日 ロイター] - 8月の円高局面で、日本の機関投資家が過去最大の対外証券投資に動いていたことが、外為市場で話題となっている。新NISA(少額投資非課税制度)を通じた個人の対外投資も相変わらず高水準で、最近やや下火となっていた円の先安観が、やはり拭いきれないものとして、市場で再び意識されそうだ。

<年金など総額8兆円超の円売り、7月介入額超える規模>

財務省によると、8月月間の対外証券投資は8兆7451億円と遡及可能な2005年1月以降で最大となった。英国の欧州連合(EU)離脱で金融市場が突如大混乱に陥った2016年7月に記録した6兆円超を、一気に2兆円以上上回る規模だ。

けん引役となったのは、国際収支上で「信託銀行(信託勘定)」と分類される投資家で、多くは国内の年金基金とされる。その信託勘定の対外中長期債投資は2兆8069億円の買い越しと、20年11月に記録した過去最大の2兆9671億円にほぼ匹敵する額となった。

今夏のドル/円は、7月に米利下げ観測の浮上と5兆円の円買い介入で161円台から149円台まで12円下落した後、8月は月初安値の141円台から149円まで、半月で8円近く切り返した。こうした激しい値動きの裏側で「国内機関投資家が円高局面をドルの拾い場と見て、かなり活発に買いを入れていた」(外銀幹部)ことが裏付けられた形だ。

<新NISA経由の個人、債券シフトで円売り継続>

注目を集めたのは、機関投資家の動きだけではない。新NISAを経由した個人資産の動きを反映するとされる投資信託が1兆1702億円の買い越しと、ここ数カ月とほぼ同額の高水準を維持したことにも、市場では驚きの声が上がった。

8月は新NISAの主な受け皿となっていた米国株が急落し、一番人気だった三菱UFJアセットマネジメントが運用する「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー、通称オルカン)」の純資産残高も、7月半ばの4.1兆円から8月第1週には3.5兆円まで急減した。毎月1兆円超と過去最大級の外貨買いを続けていた個人資産の動きも、いったん止まるとの見方が市場では支配的だった。

実際、投信の8月対外株式投資は7689億円と、今年1月の新NISA開始後で最も少ない額にとどまった。とはいえ、一方で中長期債投資が3881億円と、額は小さいものの23年1月以来、約1年9カ月ぶり高水準に膨らんだ。

気軽に利用できる新NISAで市場へ参加した個人は、手練で知られる従来の個人投資家とは層が異なり、市場に不慣れな若年層が多く、資金も小口の拠出を少しずつ繰り返すケースが多いとされる、いわば「素人扱い」に近い存在だった。

予想外だった株価急落時の債券シフトには「対外投資意欲が衰えなかったのは意外だった。機関投資家と違って為替ヘッジを用いないため、円相場に直接影響を及ぼしかねない」(みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏)として、再び円売り勢力の一角として、その動向に関心が寄せられている。

投信の対外投資は1月から8月までの累計で9兆円に達し、昨年実績の4.5兆円からすでに倍増している。

ロイター
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