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アングル:中国当局、IPO申請企業への検査強化 携帯やPC押収

2024年05月08日(水)18時10分

中国の証券当局が、新規株式公開(IPO)を申請する企業への立ち入り検査を強化している。写真は4月撮影(2024年 ロイター/Dado Ruvic)

[上海/香港 8日 ロイター] - 中国の証券当局が、新規株式公開(IPO)を申請する企業への立ち入り検査を強化している。IPOによる資金調達ペースを緩め、流通市場の株価を押し上げるのが狙いだ。10人の関係者が明らかにした。

立ち入り検査はインサイダー取引の捜査並みの厳しさで、上級幹部の携帯電話やノートパソコンを押収、検査することが多いという。

中国証券監督管理委員会(証監会)は今年3月、IPO関連の検査規則を厳格化。4月には、今年はIPO申請企業の20%について立ち入り検査を実施すると表明していた。

証券取引所のデータによると、年初から130以上の企業がIPO計画を取り下げた。化学企業、中国中化集団(シノケム)傘下のスイスの農薬・種子大手シンジェンタが3月、90億ドル規模のIPO計画を撤回したのが代表例だ。

上海および深センの証券取引所のウェブサイトによると、両取引所は今年に入って1件も上場を承認していない。

主要株価指数CSI300は、2月の底値から持ち直して年初比で7%高となっている。LSGEのデータによると、中国本土で1─4月に実施されたIPOは26億ドルと、前年同期比で約90%減って2013年以来の最低となった。

市場から流動性を吸収するIPOが急減したことは、株価の回復を助けたとみられている。しかし、厳格な検査は景気が減速する中で企業の資金調達を難しくするとともに、市場経済に向けた中国の改革が逆行しているのではないか、との懸念も呼んでいる。

もっとも、市場での資金調達を狙う問題企業を一掃し、IPOに興味を持つことの多い個人投資家を守る上で、取り締まりは役立つとの指摘もある。

資産運用会社Tongheng Investmentの幹部ヤン・ティンウー氏は「志を持つ企業家ではない多くのビジネス関係者が、投資回収の手段としてIPOを狙っている」ために個人投資家がやけど負っている、と語った。

<立ち入り検査の実態>

2月に就任した証監会の呉清主席は、低迷する株式市場を回復させる取り組みの一環として、上場企業の質向上を目指すキャンペーンを開始。3月には「IPOの審査・登録プロセスを逐一精査する」と述べた上で「資本市場から詐欺師を追い払う」と誓った。

関係者によると、証監会もしくは証券取引所の幹部がIPO申請企業を訪れ、徹底的な「健康診断」を行っている。検査では事業取引記録の原本が精査され、会長や上級管理職の個人銀行口座データまで調べ上げられる。

IPOを引き受ける銀行や証券会社の担当者も立ち会いを義務付けられ、当局者から質問されることもある。銀行の担当者は携帯電話やノートパソコンを押収されることもあり、拒否すればそのIPOから締め出されたり、解雇されたりする場合もあるという。

もし、IPO申請企業の創設者の妻が10万元(1万3861.36ドル)のルイ・ヴィトンバッグを購入しているのが見つかったりすれば、企業財務に関わる不正がないか、創設者は購入の正当性を説明させられる。

あるバンカーは「現実世界では、これほど厳しい検査に合格できる企業はほとんどない」と語った。

中国は昨年、米国のような登録制のIPO制度を完全採用したばかりだが「IPOを実施するには規制当局の厳しい審査を通る必要があった旧体制に戻りつつある」と別のバンカーは言う。

IPOの取り締まりに伴い、投資銀行の引受手数料収入は落ち込んでいる。1―3月期の株式引受手数料は前年同期比77%減の3億0100万ドルと、同期として09年以来で最低となった。

最初に登場したバンカーは「多くの同僚は数週間前から家でぶらぶらしている」と明かし、自身も「苦難だらけ」というこの仕事を離れるつもりだと語った。

ロイター
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