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情報BOX:2017年度与党税制改正大綱全文

2016年12月08日(木)17時44分

 12月8日、自民、公明両党は、2017年度税制改正大綱を正式決定した。今後数年で所得税の控除全般の改革に取り組むとし、第1弾として18年1月から配偶者の年収上限を現行の103万円から150万円に引き上げることを決めた。写真は都内で2月撮影(2016年 ロイター/Thomas Peter)

[東京 8日 ロイター] - 自民、公明両党は8日、2017年度税制改正大綱を正式決定した。今後数年で所得税の控除全般の改革に取り組むとし、第1弾として18年1月から配偶者の年収上限を現行の103万円から150万円に引き上げることを決めた。

2017年度税制改正大綱は以下の通り(一部抜粋)。

<基本的考え方>

安倍内閣はこの4年間、デフレ脱却と経済再生を最重要課題として取り組んできた。雇用・所得環境は大きく改善している。他方、世界経済においては需要の低迷、成長の減速リスクが懸念される。

個人消費や設備投資に力強さを欠いている背景には、人口減少、少子高齢化といった構造的な問題がある。このため、安倍内閣は、子育てや介護への不安をなくし、女性や若者の活躍を進めることにより、少子高齢化の流れに歯止めをかけ、誰もが生きがいを感じられる「一億総活躍社会」の実現にむけて取り組んでいる。

「一億総活躍社会」を実現し、日本全体の成長力を底上げしていくためには、「働き方改革」と「イノベーション」が両輪となる。税制においては、経済社会の構造変化を踏まえた個人所得課税改革の第一弾として、就業調整を意識しなくて済む仕組みを構築する観点から、配偶者控除・配偶者特別控除の見直しを行う。

また、生産性を抜本的に向上させるために、税制においては、企業による「攻めの投資」を後押しするとともに、コーポレートガバナンスの強化を促すための取り組みを進める。税制としても、賃金の引き上げを促すための取り組みを進める。

酒税については、類似する酒類間の税率格差が商品開発や販売数量に影響を与えてきた。こうした状況を改め、酒類間の税負担の公平性を回復する等の観点から、ビール系飲料等の税率格差の解消など、酒税改革に取り組む。

「経済再生なくして財政健全化なし」との基本方針の下、経済再生と財政健全化を両立させることがわが国の最重要課題であり、2020年度の基礎的財政収支黒字化目標との整合性を念頭に置く必要がある。消費税率10%への引き上げを2019年10月1日に確実に実施する。あわせて実施される低所得者への配慮のための軽減税率制度について、事業者の準備状況等を検証し、制度の円滑な導入・運用に万全を期す。

1)経済社会の構造変化を踏まえた個人所得課税改革

喫緊の課題への対応として、就業調整を意識しなくて済む仕組みを構築する観点から配偶者控除・配偶者特別控除の見直しを行う。その上で、今後数年をかけて、基礎控除をはじめとする人的控除等の見直し等の諸課題に取り組んでいくこととする。

・配偶者控除・配偶者特別控除の見直し

所得税・個人住民税における現行の配偶者控除・配偶者特別控除の見直しでは、所得税の場合、配偶者特別控除について、所得控除額38万円の対象となる配偶者の合計所得金額の上限を85万円(給与所得のみの場合、給与収入150万円)に引き上げるとともに、現行制度と同様に、世帯の手取り収入が逆転しないような仕組みを設ける。

同時に、配偶者控除・配偶者特別控除について、担税力の調整の必要性の観点から、これらの控除が適用される納税者本人の合計所得金額に所得制限を設けることとし、国・地方を通じた税収中立を確保する。

今回の配偶者控除・配偶者特別控除の見直しによる個人住民税の減収額については、全額国費で補てんする。

・今後の個人所得課税改革の方向性

上記の配偶者控除・配偶者特別控除の見直しは、個人所得課税改革の第一弾であり、今後も改革を継続していく。

基礎控除をはじめとする人的控除等については、現在、「所得控除方式」を採用しているが、高所得者ほど税負担の軽減効果が大きいことから、主要諸外国における負担調整の仕組みも参考にしつつ、来年度の税制改正において控除方式のあり方について検討を進める。具体的には、収入にかかわらず税負担の軽減額が一定となる「ゼロ税率方式」や「税額控除方式」の導入のほか、現行の「所得控除方式」を維持しつつ高所得者について税負担の軽減額が逓減・消失する仕組みの導入が考えられる。

2)デフレ脱却・経済再生に向けた税制措置

600兆円経済を実現するため、企業の「攻めの投資」や賃上げの促進など経済の好循環を促す取組みを進める。

・競争力強化のための研究開発税制の見直し

2020年までに官民合わせた研究開発投資を対GDP比4%以上とする政府目標も踏まえ、研究開発税制の見直しを行う。具体的には、総額型の控除率を試験研究費の増減に応じたものとする。また、IoT、ビッグデータ、人工知能等を活用した「第4次産業革命」による新たなビジネス開発を後押しする観点から、研究開発税制の対象に、「第4次産業革命型」のサービス開発のための試験研究に係る一定の費用を新たに追加する。

・賃上げを促すための所得拡大促進税制の見直し

所得拡大促進税制について、企業に更なる賃上げインセンティブを与える機能を強化する観点から、高い賃上げを行う企業への支援を強化する。

・コーポレートガバナンス改革・事業再編の環境整備

企業と投資家の対話の充実を図るため、上場企業等が株主総会の開催日を柔軟に設定できるよう、法人税等の申告期限の延長可能月数を拡大する。また、経営陣に中長期の企業価値創造を引き出すためのインセンティブを付与することができるよう、業績に連動した報酬等の柔軟な活用を可能とする。

・その他考慮すべき課題

現行のNISAが積立型の投資に利用しにくいことを踏まえ、家計の安定的な資産形成を支援する観点から、少額からの積立・分散投資を促進するための積立NISAを新たに創設する。金融所得に対する課税のあり方について、税負担の垂直的な公平性等を確保する観点から、諸外国の制度や市場への影響も踏まえつつ、必要な検討を行う。

3)中堅・中小事業者の支援、地方創生の推進

・中堅・中小事業者の支援

地域経済を牽引する中核企業等が、地域経済に波及効果のある新たな事業に挑戦するために行う設備投資を対象に、特別償却又は税額控除ができる制度を創設する。所得拡大促進税制について、高い賃上げを行う中小企業に対して、大企業を上回る支援の強化を行う。取引相場のない株式について、相続税法の時価主義の下、より実態に即した評価の見直しを行う。

・地方創生の推進

東京一極集中の是正等を図るとともに、地方における質の高い雇用を促進するため、地方拠点強化税制について、無期かつフルタイムの新規雇用に対する税額控除額を上乗せする等の拡充を行う。

類似する酒類間の税率格差が商品開発や販売数量に影響を与えている状況を改め、酒類間の税負担の公平性を回復する等の観点から、ビール系飲料や「醸造酒類」の税率格差の解消、「ビール」の定義拡大など、酒税改革に取り組む。今回の酒税改革により、酒類製造者が消費者にとって真に魅力ある商品の開発に経営資源をシフトすることや、地域の特色を活かした魅力ある商品の開発が進み、地方創生の牽引役となることが期待される。

税率構造の見直しでは、ビール系飲料(ビール、発泡酒、新ジャンル)の税率について、2026年10月1日に、1キロリットル当たり15万5000円(350ミリリットル換算54.25円)に一本化する。

4)経済活動の国際化・ICT化への対応と租税回避の効果的な抑制

・国際課税に関する制度の見直し

資金決済に関する法律の改正により仮想通貨が支払の手段として位置づけられることや、諸外国における課税関係等を踏まえ、仮想通貨の取引について、消費税を非課税とする。

5)車体課税の見直し

一部の自動車メーカーが燃費性能を偽った今回の不正は、エコカー減税制度の根幹を揺るがす問題である。燃費不正対策を強化するため、道路運送車両法を改正するとともに、税制においても、燃費不正が生じた場合の納税義務者の特例等の措置を講ずる。

自動車取得税及び自動車重量税に係るエコカー減税については、燃費性能がより優れた自動車の普及を促進する観点から、対象範囲を2020年度燃費基準の下で見直し、政策インセンティブ機能を強化した上で2年間延長する。その実施に当たっては、段階的に基準を引き上げることとする。自動車重量税については、ガソリン車への配慮等の観点から、時限的・特例的な措置を講ずる。

6)森林吸収源対策

地球温暖化対策のための税について、その本格的な普及に向けたモデル事業や技術開発、調査への活用の充実を図るため、経済産業省、環境省、林野庁の3省庁は、引き続き連携して取り組む。

7)災害に関する税制上の措置

近年災害が頻発していることを踏まえ、被災者や被災事業者の不安を早期に解消するとともに、復旧や復興の動きに遅れることなく税制上の対応を手当てする観点から、災害への税制上の対応の規定を常設化する。

8)円滑・適正な納税のための環境整備

国税犯則調査手続について、経済活動のICT化の進展等を踏まえ、電磁的記録の証拠収集手続を整備するとともに、関税法に定める犯則調査手続等を踏まえて調査手続等を整備し、あわせて規定を現代語化した上で国税通則法へ編入する等、所要の見直しを行う。地方税犯則調査手続についても、国税犯則調査手続の見直しを踏まえた規定の整備を行う。

9)その他

2017年度税制改正において結論を得ることとしていた介護保険料等に係る社会保険料控除の見直しについては、世帯主が世帯員の分もまとめて納付することが一般的な国民年金保険料の納付等に影響が及ぶ可能性があることを踏まえ、介護保険制度の見直しにより対応が図られる見込みであることに鑑み、税制改正は行わない。

(中略)

<検討事項>

1)年金課税については、少子高齢化が進展し、年金受給者が増大する中で、世代間及び世代内の公平性の確保や、老後を保障する公的年金、公的年金を補完する企業年金を始めとした各種年金制度間のバランス、貯蓄商品に対する課税との関連、給与課税等とのバランス等に留意して、年金制度改革の方向性も踏まえつつ、拠出・運用・給付を通じて課税のあり方を総合的に検討する。

2)デリバティブを含む金融所得課税の更なる一体化については、投資家が多様な金融商品に投資しやすい環境を整備し、証券・金融、商品を一括して取り扱う総合取引所の実現にも資する観点から、多様なスキームによる意図的な租税回避行為を防止するための実効性ある方策の必要性を踏まえ、検討する。

3)小規模企業等に係る税制のあり方については、個人事業主、同族会社、給与所得者の課税のバランス等にも配慮しつつ、個人と法人成り企業に対する課税のバランスを図るための外国の制度も参考に、今後の個人所得課税改革において給与所得控除などの「所得の種類に応じた控除」と「人的控除」のあり方を全体として見直すことを含め、所得税・法人税を通じて総合的に検討する。

4)寡婦控除については、家族のあり方にも関わる事柄であることや他の控除との関係にも留意しつつ、制度の趣旨も踏まえながら、所得税の諸控除のあり方の議論の中で検討を行う。

5)個人事業者の事業承継に係る税制上の措置については、現行制度上、事業用の宅地について特例措置があり、既に相続税負担の大幅な軽減が図られていること、事業用資産以外の資産を持つ者との公平性の観点に留意する必要があること、法人は株式等が散逸して事業の円滑な継続が困難になるという特別の事情により特例が認められているのに対し、個人事業者の事業承継に当たっては事業継続に不可欠な事業用資産の範囲を明確にするとともに、その承継の円滑化を支援するための枠組みが必要であること等の問題があることに留意し、既存の特例措置のあり方を含め、引き続き総合的に検討する。

6)都市農業については、「都市農業振興基本計画」に基づき、都市農業のための利用が継続される土地に関し、市街化区域外の農地とのバランスに配慮しつつ土地利用規制等の措置が検討されることを踏まえ、生産緑地が貸借された場合の相続税の納税猶予制度の適用など必要な税制上の措置を検討し、早期に結論を得る。

7)日本郵便株式会社等に係る税制上の措置については、郵政事業のユニバーサルサービスの安定的確保の観点から、経営基盤の強化のために必要な措置の実現に向けた検討とともに、引き続き所要の検討を行う。

8)医療に係る消費税等の税制のあり方については、消費税率が10%に引き上げられるまでに、医療機関の仕入れ税額の負担及び患者等の負担に十分に配慮し、関係者の負担の公平性、透明性を確保しつつ抜本的な解決に向けて適切な措置を講ずることができるよう、実態の正確な把握を行いつつ、医療保険制度における手当のあり方の検討等とあわせて、医療関係者、保険者等の意見、特に高額な設備投資にかかる負担が大きいとの指摘等も踏まえ、総合的に検討し、結論を得る。

9)国境を越えた役務の提供に対する消費税の課税のあり方については、2015年度税制改正の実施状況、国際機関等の議論、欧州諸国等における仕向地主義に向けた対応、各種取引の実態等を踏まえつつ、課税の対象とすべき取引の範囲及び適正な課税を確保するための方策について引き続き検討を行う。

10)将来、たばこ税の負担水準を見直す際には、財政物資としてのたばこの基本的性格、葉たばこ農家・たばこ小売店等への影響、市場・産業への中長期的な影響、国民の健康増進の観点などを総合的に勘案し、予見可能性の確保に配意しつつ、検討する。

11)原料用石油製品等に係る免税・還付措置の本則化については、引き続き検討する。

12)事業税における社会保険診療報酬に係る実質的非課税措置及び医療法人に対する軽減税率については、税負担の公平性を図る観点や、地域医療の確保を図る観点から、そのあり方について検討する。

13)現在、電気供給業、ガス供給業及び保険業については、収入金額による外形標準課税が行われている。今後、これらの法人の地方税体系全体における位置付けや個々の地方公共団体の税収に与える影響等も考慮しつつ、これらの法人に対する課税の枠組みに、付加価値額及び資本金等の額による外形標準課税を組み入れていくことについて、引き続き検討する。また、これらの業に係る中小法人については、近年における事業環境や競争状況の変化を踏まえつつ、課税のあり方について検討を行う。

14)地方消費税の清算基準については、2018年度税制改正に向けて、地方消費税の税収を最終消費地の都道府県により適切に帰属させるため、地方公共団体の意見を踏まえつつ、統計データの利用方法等の見直しを進めるとともに、必要に応じ人口の比率を高めるなど、抜本的な方策を検討し、結論を得る。

15)ゴルフ場利用税については、今後長期的に検討する。

16)現在、政府において、民法における成年年齢を20歳から18歳に引き下げるとともに、他法令における行為能力や管理能力に着目した年齢要件を引き下げる方向で法改正に向けた作業を進めているところである。税制上の年齢要件については、対象者の行為能力や管理能力に着目して設けられているものであることから、民法に合わせて要件を18歳に引き下げることを基本として、法律案の内容を踏まえ実務的な観点等から検討を行い、結論を得る。

(以下、略)

*本文中の一部表現を修正しました。

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