ニュース速報

ビジネス

焦点:モンテ・パスキ再建に早くも黄信号、前途多難の資本増強

2016年08月02日(火)08時56分

 7月31日、イタリア銀行大手モンテ・パスキ再建計画の2つの柱である大規模な増資と不良債権売却の先行きに、早くも黄信号が灯っている。写真は同行の支店。パリで3月撮影(2016年 ロイター/Mal Langsdon)

[ミラノ 31日 ロイター] - イタリア銀行大手モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(モンテ・パスキ)が29日に発表した再建計画は、同行の経営健全化だけでなく、イタリアや欧州全域に金融システム不安が波及するのを回避することなどを狙って大急ぎで取りまとめられた。しかし2つの柱である大規模な増資と不良債権売却の先行きに早くも黄信号が灯っている。

特に再建計画成功の鍵は総額50億ユーロに上る増資を年内に完了できるかどうかが握っているが、時価総額が10億ユーロ弱で、2014年以降に80億ユーロもの資金を新株発行で調達し、すぐに使い果たしたモンテ・パスキにとっては無理難題とも言える。

国際的な投資銀行が新株引き受けに仮合意しているとはいえ、その前提条件は大規模な証券化を通じた92億ユーロの不良債権売却が成功することだ。ただ、これほどの規模の証券化はイタリアでは過去に例がない。

何人かの銀行関係者やファンドマネジャーは既に、この計画がうまくいくかどうか疑問を投げかけている。

資産運用会社ハーミーズ・インベストメンツのクレジットアナリスト、フィリッポ・アロアッティ氏は「計画の2本柱にはともに崩れやすい要素がある。モンテ・パスキの過去の増資実績を踏まえれば、このような大掛かりな増資を完了するのは難しいだろう。また不良債権の証券化もとてつもない作業だ。実行に伴うリスクは著しく大きい」と述べた。

<逆風の市場環境>

JPモルガンと伊メディオバンカは、サンタンデール、ゴールドマン・サックス、シティ、クレディ・スイス、ドイツ銀行、バンク・オブ・アメリカとともに、引受団を形成することに暫定的に合意した。

だが少なくとも3行、インテーザ・サンパオロ、ウニクレディト、モルガン・スタンレーは引受団には加わらず、モンテ・パスキが十分な投資家の支持を得られるかどうか投資銀行業界にも懸念があることが浮き彫りになった。

さらに引受団に入った銀行も、売れ残った新株を保有するという最終的な約束をしたわけではない。

モンテ・パスキの増資については株式ブローカー、エクイティアが調査ノートで、今の不安定な市場において必要としている全額を調達するのは「ほぼ無理」と予想した。

イタリアの銀行が抱える不良債権額は3600億ユーロと、ユーロ圏全体の3分の1を超える。これが重しになり、イタリア銀行株は今年になって下落している。その上にウニクレディトが近く数十億ユーロの増資に踏み切る見通しで、モンテ・パスキが当てにしている投資家がそちらに流れる可能性がある。

またレンツィ首相が進退をかけている上院の権限縮小を盛り込んだ憲法改正の是非を問う国民投票が否決されれば、イタリア市場への見方が一段と悲観的になりかねない。

<転換点はまだ先>

モンテ・パスキの不良債権証券化は、シニア債となる60億ユーロに政府保証が付与される予定で、メザニン債16億ユーロは民間出資の銀行救済基金「アトランテ」が買い取る。残りの最もリスクが大きいジュニア債は既存株主に売られる。

ただしシニア債が、政府保証確保に必要な投資適格級格付けをすべて得られるかはっきりしていない。事情に詳しい関係者は、ブレグジット(英の欧州連合離脱)問題で経済の先行き不透明感が漂う中で、裏付け債権の価値を格付け会社が評価する必要があるため、結論が出るまでには1年はかかるだろうと話した。

LCマクロのチーフエコノミスト、ロレンツォ・コドーニョ氏は「60億ユーロのシニア債の一部は投資適格級とならず、売却が困難になる」と予想した。

コドーニョ氏によると、イタリアの銀行問題は解決に向けた道のりを歩み続けているものの、本格的に事態が好転する地点にはまだ達していないという。

(Silvia Aloisi、Valentina Za記者)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

鈴木財務相「財政圧迫する可能性」、市場動向注視と日

ワールド

UCLAの親パレスチナ派襲撃事件で初の逮捕者、18

ワールド

パプアニューギニアで大規模な地すべり、300人以上

ワールド

米、ウクライナに2.75億ドル追加軍事支援 「ハイ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 2

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリン・クラークを自身と重ねるレブロン「自分もその道を歩いた」

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 5

    なぜ? 大胆なマタニティルックを次々披露するヘイリ…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    これ以上の「動員」は無理か...プーチン大統領、「現…

  • 8

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 9

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシ…

  • 10

    台湾の電車内で、男が「ナイフを振り回す」衝撃映像.…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 8

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中