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アングル:MRFマイナス金利適用外、信託銀の苦悩は続く

3月15日、MRFをマイナス金利の適用外とすることが決まったが、運用を受託している信託銀行の苦悩は続きそうだ。写真は銀行の看板。都内で2009年8月撮影(2016年 ロイター)
[東京 15日 ロイター] - マネー・リザーブ・ファンド(MRF)をマイナス金利の適用外とすることが決まったが、MRFの運用を受託している信託銀行の苦悩は続きそうだ。
短期金融市場で金利を取りにくい状況に変わりないほか、運用に困ったさまざまな資金が自行の銀行勘定に積み上がり、マイナス金利の適用を受けるリスクが高まっているからだ。
<「満額回答」にあらず>
日銀のMRFに関する決定が伝わった15日、投資信託協会や日本証券業協会はコメントを発表し、「良い方向性を決定していただいたことに感謝する」と歓迎した。
しかし、証券業界や運用業界は歓迎ムード一色ではない。今回の決定では、マイナス金利の適用対象外となるMRFの額について「昨年の受託残高」が上限と定められたためだ。「お互いの思っていたレベルが違った。(日銀と業界の間の)水準感が埋まっていない印象」(大和証券・日本株上席ストラテジスト、高橋卓也氏)との指摘もある。日銀は、残高の算出方法の詳細は今後定めるとしている。
<信託銀、マイナス金利適用のリスク>
「苦悩」が晴れないのはMRFの運用を受託している信託銀行だ。複数の関係者によると、信託協会も投信協や日証協と同様の要請を日銀に行ってきたが、15日夕刻時点で同協会のコメントは出ておらず、投信協や日証協とは対照的となった。
MRFは、主に短期国債やCP、翌日物コールローンといった短期の金融商品で運用され、日銀のマイナス金利政策導入でこうした短期の金利も急低下した結果、運用はさらに困難になった。MRFの運用の「指図」をするのは運用会社だが、運用資金が管理・保管されているのは受託会社である信託銀行だ(信託業務を行っているりそな銀行を含む)。各行は、マイナス金利がつく短期金融商品を購入するのを避け、MRFの資金の一部を自行の銀行勘定に貸し出すかたちで移しているが、銀行勘定に現金が急速に積み上がった結果、日銀当預のうちプラス金利が適用される「基礎残高」部分を超えてしまい、マイナス金利が適用されるリスクに直面している。
日銀がMRF資金をマイナス金利の適用対象から外すと決めたことで、マイナス金利が「直撃」するリスクは後退した。しかし、適用対象外となるMRFの金額に上限が設けられたうえ、銀行勘定に退避させている資金が増えており、マイナス金利のリスクから逃れ切れていない。ある信託銀の関係者は「銀行勘定に回している資金はMRF由来だけではない。企業年金の運用でも短期まわりへの投資はやはり厳しく、銀行勘定に回している」と話している。
信託銀行は、商業銀行に比べて預金をあまり引き受けておらず、その分、前年までの日銀当座預金での運用規模が相対的に小さい。そのため、マイナス金利の導入時に、前年実績に基づいて設定された基礎残高が少ない。
<運用難のコスト、運用会社にも>
金融庁のある幹部は「マイナス金利政策のしわ寄せは、信託銀行がいちばん受けている」と話し、信託銀行が運用会社など大口の資金の出し手に手数料を求めることも容認する構えだ。
一般的に銀行からのサービスは手数料なしという神話が根強く残る日本では、なかなか受け入れられないステップになるが、「誰かが負担を被らなくてはならない状況になったという新たな認識をすべき時に来ているのではないか」(別の金融庁幹部)との声もある。ただ、先の金融庁幹部は、手数料が回りまわって、個人投資家にきちんとした説明なしに転嫁されるのは容認しがたいとも釘を刺し、海外に比べて未熟とされる日本の投信ビジネスの育成の阻害になる事態は回避したい考えだ。
日銀の黒田東彦総裁は15日の会見で、必要ならば、始めたばかりのマイナス金利の効果が十分に表れる前に追加緩和に踏み切る姿勢を示した。運用環境の厳しさは当面続きそうで、今後、信託銀行が運用難から生じるコストをどこまで運用会社などに求めて行けるのか、といった議論が巻き起こる火種を残したと言えそうだ。
(和田崇彦 取材協力:江本恵美 編集:石田仁志)