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国債買い入れ縮小が物価安定の近道=木内日銀委員

2015年09月03日(木)12時07分

 9月3日、日銀の木内登英審議委員(写真)は、米国と中国の経済下振れによる輸出減速から、日本経済の成長率は緩やかなものにとどまり、日銀の目標である2%の物価上昇率の早期達成は難しいと指摘した。2012年7月撮影(2015年 ロイター/Issei Kato)

[青森市 3日 ロイター] - 日銀の木内登英審議委員は3日、青森市内で講演し、米国と中国の経済下振れによる輸出減速や、物価先高観による消費抑制などで、日本経済の成長率が緩やかなものにとどまると指摘。2%の物価目標の早期達成は難しいと指摘した。

一方、現在進める巨額の国債買い入れは副作用が大きいとして、自身が提唱する国債買い入れの減額が結果的に物価目標達成への近道であるとの見解を強調した。

<中国成長率、潜在力低下以上に鈍化の可能性>

木内委員は世界経済の現状について、米国には「成長トレンドの下振れ観測」があり、中国は「潜在成長率の低下を上回るペースでの成長率鈍化が進んでいる可能性」があると指摘。米中両国経済の下振れで「アジア諸国も、下振れ傾向がより顕著になる」として、日本の輸出は「7─9月に緩やかながら増加に復する」が、その後も「当面は勢いを欠く」とした。成長率も「上昇はかなり緩やかなものになる」との見方を示した。

日銀の公式見解によると、物価は2016年度前半に2%に達する見通しだが、木内委員は「17年度まで視野に入れても2%に達する可能性は低い」と否定。2%目標は「現時点で日本経済の実力をかなり上回っている」として、「実力以上に物価を押し上げようと過度な緩和状態を続ければ、経済・物価の安定をむしろ損ねてしまう」とのリスクを懸念した。

<値上げで消費は抑制的に>

消費停滞の一因として、物価の先高観を列挙。食料品や日用品の値上げが広がっているが、「賃金の上昇に簡単には追いつかないとの見方が広まっており、年金生活者や低所得者の消費がより抑制的になる可能性がある」と分析した。

日本経済の潜在的な供給力と需要の差である需給ギャップはすでに解消されていると指摘、「世界的にディスインフレ傾向が根強い点も踏まえると、日銀の政策姿勢のみで、中長期な期待インフレ率を継続的に高めていくのは困難」との見方を示した。

「景気が経済の実力に見合ったペースで回復」するのが重要として、同氏の提案している買い入れ縮小が「物価目標実現の近道」とした。「国債買い入れ残高を増やしても実質長期金利は低下しにくい」ことから、買い入れ縮小で「(緩和の)効果を大きく減殺することはない」と説明した。

<正常化先送りで市場不安定になればQQE成果台無しにも>

買い入れを減額しても「緩和は累積的に強化される」とも説明。減額を契機とした量的・質的緩和(QQE)からの正常化をあまり先送りすれば、国債の流動性低下など「金融市場が不安定化する潜在リスクはより一層高まり、結果的にQQEの成果を台無しにしてしまうおそれがある」と警鐘を鳴らした。

日銀は昨年10月の追加緩和で、年間の国債買い入れ額を50兆円(残高ベース)から80兆円に引き上げたが、木内委員は追加緩和に反対。今年4月からは、買い入れを45兆円に縮小する独自提案を続けている。

8月以降、中国発で世界の金融市場が激しく動揺するなかでも、縮小提案を堅持するかが注目されていた。

*内容を追加します。

(竹本能文 編集:田中志保)

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