コラム

バイデンとトランプの大きな違い──「機密文書問題」を読み解く

2023年01月24日(火)11時40分
バイデン

24年大統領選への再選出馬に悪影響? LEAH MILLISーREUTERS

<バイデンが自発的に適切な報告を行ったのに対し、トランプは文書の持ち出しについてごまかし、嘘をつき、法律をないがしろにした>

国家安全保障に関わる組織では、機密文書の扱い方が厳格に定められている。プロの情報機関職員が機密文書の取り扱いを誤れば、キャリアの終わりを覚悟しなくてはならない。私も昔、書類カバンを一瞬なくし、血の気が引いたことがある。

しかし、今回バイデン大統領に持ち上がった機密文書問題──副大統領時代の機密文書を個人事務所や私邸に持ち出していたことが明らかになった──は、アメリカの国家安全保障への影響以上に大きな政治的波紋を既に生み出している。バイデン支持者の間でも、2024年大統領選への再選出馬を目指す上で大きな打撃になったという見方がある。

ガーランド司法長官は、この問題を捜査するための特別検察官を任命した。これは、トランプ前大統領が私邸に機密文書を持ち出していた問題に関して昨年11月に取ったのと同様の措置である。

もっとも、これにより共和党がバイデン政権の「ダブルスタンダード」を批判しなくなるわけがない。共和党は、昨年夏に司法省がトランプの私邸を強制捜査したことを非難し、どうして今回は強制捜査を行わないのかと主張している。下院でもこの問題でバイデン政権を厳しく追及する構えだ。

バイデンとトランプが機密文書の取り扱いを誤ったことは、私に言わせれば意外ではない。政治家が機密文書とそれ以外の文書を一緒くたにするのは日常茶飯事だ。何しろ政治リーダーの元には、毎日何百枚、ことによると何千枚もの文書が届けられる。

情報機関で働いた経験のある人間なら知っているように、このような状況では、簡単に文書が行方不明になる。それを防ぐためには、あらゆる文書を1枚残らず厳格に管理するほかない。CIAや米軍が政治家に機密文書を届ける際、彼らがうっとうしがってもしばしば直接手渡しして、読み終わるまでそこで待機し、すぐに回収して持ち帰るのはそのためだ。

機密文書といっても、実際には政策遂行を脅かすような情報を含んでいない場合も多い。しかし、バイデンとトランプが持ち出した文書の一部は「最高機密」で、トランプが持ち出したものの中には「機密隔離情報(SCI)」の指定を受けている文書も含まれていたという。「SCI」の文書には、「最高機密」以上に機密性の高い情報が記されている。

「最高機密」もしくは「SCI」扱いの文書は、閲覧権限がない者の目に触れれば、情報機関の秘密の情報源や情報収集の方法、持っている能力、分析結果、計画や方針などが漏洩するリスクがある。この場合は、政府の政策遂行が脅かされ、ことによると人命が危うくなりかねない。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米軍、「麻薬船」攻撃 4人殺害と発表

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、大幅高の反動で 足元は6

ワールド

共和党有利のテキサス州選挙区割り、最高裁が支持 下

ビジネス

国債先物は小反発で寄り付くが上値重い、長期金利18
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story