コラム

電気代が5割上がる現実を直視しよう

2014年07月30日(水)18時23分

 北海道電力は、7月30日に予定していた電気料金の値上げの申請を延期した。今年3月期の決算では3年連続の赤字になり、再値上げを行なうとみられていたが、経済産業省との調整が難航しているようだ。

 東日本大震災のあと、すべての原発が止められたため、LNG(液化天然ガス)の輸入が増え、電力会社は電気料金を上げたが、大幅な赤字が続いている。北電では、次の図のように震災前に比べて燃料費が3230億円も増えたのに対して、料金収入が590億円しか増えていないため、今年3月期には988億円の経常損失を計上した。

nwj0730.JPG

北海道電力の燃料費と赤字(出所:北電ホームページ)

 なぜ料金を上げても、赤字が続いているのだろうか。その原因は、経産省が原発が動いているという架空の前提で値上げ幅を圧縮したからだ。北電の場合には、今年6月までに泊原発がすべて再稼動することになっていたが、今のところ運転再開の見通しは立たない。

 その結果、赤字が資本を浸食して債務超過の危機に瀕し、政策投資銀行から500億円の緊急融資を受けた。経産省は消費税の10%への増税を控えて「再々値上げは許さない」といっているので、この先も原発が動かないことを前提に料金を算定すると、2割以上の値上げが必要になる。

 震災後、産業用の電気料金は(円安にともなう調整を含めて)全国平均で約3割上がったが、これは原発が1~2年で正常化するという前提だった。しかし原子力規制委員会の安全審査は大幅に遅れ、今年中に九州電力の川内原発1・2号機が再稼動できるかどうかという状況だ。

 このままだと全国の電力会社が、北電のように再値上げする必要がある。甘利経済再生担当相は、6月27日の記者会見で「このまま放置すると、産業用の電気料金は震災前の5割上がる」とのべたが、最大では6割上がる可能性もある。

 特に大きいのは、東京電力と関西電力だ。今の東電の電気料金は、柏崎刈羽原発が2013年4月から順次動くことを前提に算定しているが、新潟県の泉田知事が再稼動に絶対反対なので、絶望的だ。関電も大飯原発3・4号機と高浜原発3・4号機の運転を前提にして料金を算定しているが、これもいつ運転できるかわからない。

 規制委員会は、7月16日に川内原発について「合格」を内定したが、まだこれから自治体の同意に時間がかかる。川内の2基に約1年かかったので、3チームで並行して審査しても、このテンポでやると、全国の48基の原発が正常化するのには8年かかるだろう。

 規制委員会が慎重に審査するのは結構だが、これは再稼動とは無関係である。内閣は「原子炉等規制法において発電用原子炉の再稼働を認可する規定はない」という政府答弁書を閣議決定した。再稼動を認可するという規定はないのだから、規制委員会がそれを認可する権限もない。彼らは、規制基準に合格したかどうかを認定するだけだ。

 逆にいうと規制委員会がOKを出さなくても、原発は正常化できる。安全審査は運転と並行して行うもので、何年も運転を止める必要はない。ほとんどの原発は定期検査を終え、「ストレステスト」にも合格したので、法的にはいつでも運転できる。再稼動を決めるのは規制委員会ではなく、安倍首相の政治決断なのだ。

 日本経済の問題が、需要不足による「デフレ」だと考えたアベノミクスは誤りだった。消費者物価上昇率が1.6%(消費税を除く)になっても、人手不足の中で実質賃金は下がり、消費支出も鉱工業生産も大幅に落ち込んだ。日銀の黒田総裁もいうように、供給不足が成長を制約しているのだ。

 中でも最大の制約は、エネルギーコストだ。今年1~6月期の貿易赤字は、約7.6兆円と半期で史上最大になった。このうち2兆円近くが原発停止にともなうLNGの輸入増だ。そのコストを電力会社に負担させるのは、問題の先送りにすぎない。コスト増を見越した製造業のアジア脱出が加速している。

 しかし原発停止の損失を利用者が意識しないから、「電力は足りている」という人が出てくる。電気料金をごまかすのはやめ、5割値上げして利用者に負担させるべきだ。そういうコストを直視した上で、エネルギー問題を考える必要がある。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独首相が米安保戦略批判、欧州の自立促進呼びかけ

ビジネス

スペースXが来年のIPO計画、250億ドル超調達目

ワールド

米、中国軍のレーダー照射を批判 「日本への関与揺る

ワールド

印防衛企業がロシアに接近、西側との共同開発に支障 
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story