コラム

若々しさを保つ「テロメア」は延命効果よりがんリスクの方が高い?

2023年05月16日(火)16時35分

また、研究チームは、長いテロメアを持つ参加者たちは、一般的なテロメア長を持つ人々よりもテロメアの短縮速度が遅いことも発見しました。

研究を主導したジョンズ・ホプキンス大医学部教授のメアリー・アルマニオス氏は「私たちの発見は、長いテロメアが老化から守るという考えに疑問を投げかけます。参加者たちは長いテロメアによって、加齢に伴って生じる突然変異を持つ細胞の耐久性も向上したようです」と説明します。

長いテロメアの効果で正常細胞の分裂回数の制限が増えれば、皮膚や毛髪は若々しさを長く保てます。しかし、本来ならば速やかに排除すべき変異細胞の耐久性も上げてしまうことで、変異は蓄積され、がんのリスクが高まった可能性があります。

試験管で細胞そのものを取り扱う実験では、テロメアの短縮が起きなければ細胞の寿命は尽きないことが示されています。1951年に今回の研究と同じジョンズ・ホプキンス大で女性患者のガン細胞から分離された「ヒーラ細胞」は、不老不死の細胞として現在でも世界各地で研究に使われています。テロメラーゼ活性化により、テロメアが細胞の分裂を止める引き金となる長さまでは短縮されないことが原因です。

対して、個体の寿命に関しては、長いテロメアによって細胞分裂の回数は引きのばせても、がんが現れやすくなり死亡リスクが高まると一筋縄ではいかないようです。今後は、細胞に突然変異を蓄積させない方法が開発されるかもしれませんが、今のところテロメアの長さを維持したり伸ばしたりするだけでは不老不死には至らないでしょう。これらに見られるある種の「バランス」には、生命の神秘を感じずにはいられませんね。

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プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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