コラム

習近平とは「友達解消」、トランプの対中切り札は中国高官の不正蓄財

2018年10月16日(火)15時00分

中国による世論操作をアメリカは警戒(北京のCCTVビル) Damir Sagolj-REUTERS

<国営メディアのロビーエージェント認定や軍高官への制裁など、深まる米中政治戦争でアメリカが握る「人質」カードとは>

昨今のアメリカと中国との対立は、一般的に「貿易戦争」として語られることが多い。だが、対立に絡む一連の動きを見ていくと、実態はむしろ「政治戦争」と判断せざるを得ない。

9月中旬、米司法省が中国国営の新華社通信とCCTV(中国中央電視台)の国際放送部門CGTNを、中国政府のロビー活動を手掛けるエージェントと認定。外国機関登録法に基づく登録を命じた。この2つの機関は報道機関を装っているが、実際は中国共産党の世界進出の意思を代弁。自国政府のために他国の世論を操作するプロパガンダ機関と見なされたわけだ。

実際、これらの機関に所属する人々はほとんどが何らかの形で中国政府の諜報機関とつながっている、とアメリカの識者たちは指摘する。

時を同じくして、米政府は中国軍の特殊機関と軍高官に対し資産凍結などの制裁を科した。米政府は9月20日、ロシアから戦闘機などを購入したとして、中国人民解放軍の兵器管理と調達を担う共産党中央軍事委員会装備発展部とそのトップ、李尚福(リー・シャンフー)部長を制裁対象に指定。昨年8月に成立した対ロ制裁法に基づき、トランプ米大統領が発動を命じる大統領令に署名した。

装備発展部は昨年12月、ロシア国営の兵器輸出企業ロスオボロンエクスポルトから最新鋭戦闘機スホーイSu35を購入。今年1月にはS400地対空ミサイルシステムを買い上げた。購入を主導した李は、中国軍の宇宙利用を担う戦略支援部隊の副司令官。無人月探査機打ち上げにも携わった名将で、習近平(シー・チンピン)国家主席の側近だ。購入は中国最高指導部の意思表示とみていい。

北京発プロパガンダ戦略

こうしたアメリカの対中措置は、経済分野とは無関係な政治的メッセージ性の強いものだ。新華社通信とCCTVは一党独裁政権の正統性や共産主義を広めようとする情報機関。東西冷戦が終結し、ソ連側の主張を展開していたモスクワ放送が鳴りを潜めて以降、唯一巨大な影響力を発揮してきたのは、北京発のプロパガンダだ。

通信社やテレビ局の記者だけではない。中国政府が世界各地に設立している語学学校「孔子学院」の教師も政府の国家漢語国際推進指導小組弁公室(漢弁)に所属し、世界各国で親中派を育成している。

新華社通信とCCTVにエージェント登録を命じる前から、FBIが既に孔子学院を捜査対象とするなど、アメリカは中国の政治的干渉に警鐘を鳴らしてきた。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、一部の米提案は受け入れ 協議継続意向=

ワールド

韓国検察、尹前大統領の妻に懲役15年求刑

ビジネス

英サービスPMI、11月は51.3に低下 予算案控

ワールド

アングル:内戦下のスーダンで相次ぐ病院襲撃、生き延
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 8
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story