コラム

山梨県東部「郡内地方」を横断 交通の要衝を徒歩で実感する

2019年05月23日(木)17時00分

◆交通の「要衝」であり「難所」の郡内地方

8_009.jpg

大月市の中心市街地の道は番犬の領域とトラックの領域が密着するほど狭かった

8_010.jpg

桂川の谷底に向かう急峻な地形に連なる住宅=山梨県大月市、国道20号・大月橋より

大月駅は、東京から甲府・松本方面に抜ける中央本線の主要駅であると同時に、富士五湖方面に向かう富士急行線の起点である。つまり、相模川流域と富士五湖エリアを結ぶ郡内地方の交通の要衝だ。そんな重要拠点でありながら、国道20号から一本隔てた駅前通りは狭く、一地方の中心地としては非常に控え目な町並みであった。

駅前通りが国道20号に合流したところで、山梨県内では桂川と呼ばれている相模川を渡る。眼下は、川沿いの崖下の狭い空間に住宅が密集する急峻な地形だ。山梨県=甲斐国は「交通の要衝」でありながら「山に囲まれた閉鎖空間」であるという二面性を持つと言われている。これまで郡内地方を歩いてきた実感は、それにぴたりと合致する。

僕は、この地域の初心者ではない。長野県の蓼科高原で山暮らしをしながら、ちょくちょく東京に出て仕事をしているので、両者を結ぶ甲州街道をしょっちゅう車で往復している。中央高速を使うことも一般道をひた走ることもあるが、どちらを通っても感じるのは、この郡内地方が甲州街道のボトルネックになっているということだ。

中央道の郡内地方区間である笹子トンネルー小仏トンネル間は、カーブとトンネルの連続だ。特に小仏トンネルの手前では週末ごとに大渋滞が起きている。下道の国道20号も郡内地方の区間は片側一車線のくねくね道である。運転が好きな僕は、むしろそのワインディング・ロードを走るのが楽しみで、時間がある時は極力下道を走るようにしている。いずれにせよ、この地域が歴史的に交通の要衝であると同時に難所だったこと、そして、今もその名残があることは、歩いてみればより鮮明に実感できる。

◆昭和後期と平成を「総括」する旅

8_013.jpg

昭和を彷彿とさせる伝統的なドライブイン=山梨県大月市

8_015.jpg

火の見櫓の真下の"結界"から空を見上げる=山梨県大月市

8_016.jpg

大月インター近くのジープと日の丸と幟旗のある甲州名物・ほうとうのお店

リーマンショックに続く東日本大震災で日本の景気がどん底に落ちた時期に、僕のような末端のフリーランスは一気に仕事を失って窮乏した。高速料金すら払うのが厳しくなったその時期、僕はこの国道20号の蓼科--東京間の約200キロを、ひたすら往復して仕事をしていた。しかし、それは単なる貧しさゆえの苦行ではなかった。むしろ、積極的にロングドライブを楽しんでいた。それができたのは、郡内地方でピークを迎える沿道の風情のおかげだった。アクセスにある種の不便さが残っていることは、地元の人にとってはありがたくない反面、旅人にとっては、その地域に特徴的な「風情」と結びつく要素なのだ。

そして、この「徒歩の旅」を実行した根源には、自分の苦しい時代と共にあった甲州街道をもっとしっかり見てみたいという思いがあった。平成が終わり、失われた20年という暗いトンネルの先に光明が見えてきた今こそ、文字通り地に足をつけて甲州街道という「マイ・ウェイ」の細部をおさらいしたいと思った。昭和の左翼運動家たちは「総括」(※)ということをよくしたそうだが、これは、政治的イデオロギーに依拠しない世代に属する昭和生まれ・平成育ちの僕なりの、「自分たちの時代」の総括でもある。令和・2020年代へと希望をつなぐための通過儀礼だと言い換えてもいい。僕の個人的な思いにフォーカスすれば、それがこの旅の動機と目的である。

その「総括」を促すかのように、大月の国道沿いには「昔ながらのドライブイン」「火の見櫓」といった昭和の残滓が点在していた。子供時代の郷愁を噛み締めながら中央道の大月インター付近まで来ると、屋上に日の丸を掲げ、「戦後」のアイコンである進駐軍風のジープが駐車場に停まっている甲州名物・ほうとうのお店があった(ほうとうは国中の名物らしいが)。そして、その店先には「停滞から前進へ」という、現在進行形のスローガンが書かれた幟旗が翻っていた。その一塊の光景は、この旅の趣旨を象徴する強烈なビジュアルとして、目に焼き付いた。

※「総括」・・・全体を見渡し、整理して一つにまとめること。1960〜70年代の左翼運動家の間では、それまでの活動を振り返り、反省することで活動の改善策を見出し、自分たちの目指すイデオロギーを確立する思考法として好んで用いられた。29名中12名が仲間同士のリンチなどによって死亡した連合赤軍の山岳ベース事件では、この「総括」が直接・間接的な暴力の要因になった。

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イラン交渉団、和平目指し直接会談 パキスタン交

ワールド

米軍がホルムズ「掃海」とトランプ氏、イランTVなど

ワールド

バンス米副大統領、パキスタンのシャリフ首相と会談

ワールド

米が資産凍結解除に同意とイラン筋、米当局者は否定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦によって中国が「最大の勝者」となる理由
  • 2
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけない副作用に研究者が警鐘
  • 3
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 6
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人…
  • 7
    革命国家イラン、世襲への転落が招く「静かな崩壊」
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 9
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 10
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story