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Editor's Note

編集者は楽になった、のか

2010年02月15日(月)17時39分

 インターネットはおろか、パソコンさえ普及していなかったその昔。アメリカから記事と写真を送ってもらい、1~2日で翻訳して編集して雑誌にするのは、今と比べると途方もない作業だった。

 93年に編集部に入った頃。回線で送られてきた英文原稿のプリントアウトを見ながら、富士通のオアシスに翻訳をパチパチと打ち込んだ(親指シフトは最後まで覚えられなかった)。

 外国人のネイティブチェッカーによる誤訳チェックも、日本人のファイナルチェッカーによる文章チェックも、そのたびごとに印刷して手渡して、赤ペンで直しを入れてもらった。すべて終わると、入稿するために、記事を保存したフロッピーディスクを制作セクションの人のところへ持っていった。駆け足で。

 当時は、それでもだいぶ「進化」したという話だった。86年に創刊した頃は、英文原稿の変更履歴をチェックするのに、オフィスの窓(!)を使っていたという。まず、ニューヨークから最初にファクスで送られてきた記事のドラフトを窓に張りつける。その上に、あちこち修正された同じ記事の編集済み原稿を重ねる。すると下のドラフトが透けて見えるので、どこが書き換わったかがわかる...。

 今はどうか。記事も取材メモもすべてメールで、ニューヨークのNewsweek編集部や記者から送られてくる。編集はほとんどすべてパソコンとネットで完了し、サーバに放り込めば30分もしないうちに写真とともにレイアウトされた校正紙が出てくる。

 海外にいる記者が横書きの英語で記事を書き終えてから、縦書きの日本語の記事ページが仕上がるまで、早い記事だと10時間くらい。

 自宅や外出先で記事をチェックするときは、PDF化した校正紙をメールで送ってもらう。PDFに直接書き込めるソフトを使って赤字を入れて、校正担当の人にメールで返送しておしまい。パソコンを開ける余裕がないときはiPhoneでPDFを確認し、そのままiPhoneでメールか電話で赤字の内容を連絡する。

 というわけで、最初にデスクや記者が打ち合わせをして、取材、執筆、編集、原文が英語や韓国語の記事であれば翻訳、デザイン、校正、校閲と進み、めぐりめぐって雑誌が出来あがるまで、今はほぼ完璧にペーパーレスになった。

 手間という意味では楽になったし、昔だったらとうてい間に合わないニュースや、ぎりぎりまで取材した内容が記事に盛り込めるようになっている。でも、そんなことに何の意味があるのか? という問いを、テクノロジーの進化は何年も前からニュースメディアに突きつけてきた。

 何かを伝えるということに限っていえば、朝か昼か夜か、日刊か週刊か月刊か、紙か電波かネットかという違いはもうほとんど意味をもたなくなっている。いつ読みたいか、どこで読みたいか(電車の中か職場のデスクかスタバか家か)、どこまで知りたいか(知りたくないか)、などのニーズの違いがあるだけだ。

「これからのNewsweekは単なる紙の週刊誌じゃない。ウェブやモバイルを含めた、今までのニュースウィークリーとは違うメディアになる」。ニューヨークで会った米国版の編集長がそう言っていたのは4年前。その後、YouTubeやiPhone、ツイッターなども出てきて、アメリカのニュースメディアの有り様はかなり変わったようにも見える。あるいは、もっと変わるべきなのにちっとも変わっていないようにも見える。

 あらゆるニュースがほぼリアルタイムで伝わり、その分析や解釈や意見も1日と経たずに膨大に提供される世の中だからこそ、1週間という単位で「重要なニュース」を仕分けし、誰が何を言っているのかがすっきりわかるメディアのニーズが高まる。

 NewsweekやTIME、The Economist、BusinessWeek、ドイツのシュピーゲルなどが紙の週刊誌を発行し続けている理由はそこにもある。

 けれど、iPadのようにテレビとか新聞とか雑誌といった外形が完全に取り壊されるメディアを誰もが当たり前のように使う時代になれば、それぞれのニュースメディアは今度こそまったく別のものに生まれ変わるかもしれない。

 アナログの時代にちょっぴり懐かしさを感じながらも、ニュースメディアの新しい形を探る時代にめぐり合った幸運(と、つらさ)を噛みしめつつ、明日のウェブサイトや来週号の誌面をどうするか、私たちは頭を悩ませている。世界中の多くのニュース週刊誌の編集者たちがおそらくそうであるように。

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BLOGGER'S PROFILE

竹田圭吾

1964年東京生まれ。2001年1月よりニューズウィーク日本版編集長。

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