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米中関係は安定、日中関係は悪化...習近平政権の本当の余裕と限界

XI JINPING

2025年12月31日(水)10時00分
柯隆 (東京財団主席研究員)
AI-GENERATED IMAGE BY SHUTTERSTOCK AI

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<トランプ政権と和解し、習近平政権の外交は一見順調に見える。しかし足元では、内政不安の深刻化と後継者不在という構造的課題が表面化している。中国政治の現実を踏まえ、日中関係が迎えうる「新たな転機」を考える>


▼目次
日中関係が迎えうる「新たな転機」

そもそも今回の米中関税戦争は、ドナルド・トランプ米大統領が対中貿易不均衡を問題視して、中国に対して制裁関税を発動したものだった。しかし、2025年10月に韓国・釜山で行われた米中首脳会談で対立は和解したように見える。それに対して、韓国・慶州で行われた日中首脳会談後、高市早苗首相の台湾有事発言で日中関係は急速に「氷点下」まで冷え込んでいる。

なぜ習近平(シー・チンピン)国家主席の政権は日本に対してここまで硬直的な姿勢で臨んでいるのだろうか。残念ながら、高市とその部下たちは習政権の権力構造を十分に理解しないまま、首脳会談に臨み、その後に国会で言わずもがなのことを言ってしまった。そして、習政権が絶対に反発してくることが予見できたのに、「プランB」を用意していなかった。

習政権の外交を見ると、25年の最大の成果は何といってもトランプ政権と和解し、アメリカの対中関税の大半を下げてもらったことである。その上26年4月にトランプの訪中が確定し、その後、習の国賓訪米も予定されている。

言い換えれば、習政権の外交が絶好調なとき、高市は喧嘩を売ってしまった。それに対して習政権が思い切って反撃するのはある意味当然である。高市はトランプとの首脳会談を成功させたが、その勢いで習との首脳会談の後、国会で言わずもがなのことを全部言ってしまった。「カード」を残しておくべきだったが、既に後の祭りだ。

習政権にとって悩みもある。それは内政不安である。習政権は今、台湾に対して武力を行使する余力は全くないと思われる。中国経済は減速して回復する兆しはない。若者の失業率は高止まりして、所得格差も拡大している。一般的に経済成長局面に比べ、経済減速局面で低所得層の所得は悪化しやすい。このため、中国では所得格差が拡大し、不満がガスのようにたまっている。

26年の習政権は対米関係をこのまま安定させ、国内経済に重点的に取り組まなければならない。27年の第21回党大会で習主席が4期目に突入する準備として、何としても経済を浮揚させなければならないからだ。このような背景を事前に分かっていれば、高市は喧嘩を売るようなことを言わず、むしろ経済協力の意思を表明すべきだった。台湾有事の話はトランプ政権の「国家安全保障戦略」が出たあと、それに追随する形で態度を表明すべきだった。高市政権に失策があったとすれば、インテリジェンスが全く機能していない点である。

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