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上野からパンダがいなくなる一方、フランスには2匹貸与...中国「パンダ外交」を侮ってはいけない理由

Pandas, pingpong and ancient canals: President Xi’s hosting style says a lot about Chinese diplomacy

2025年12月16日(火)18時10分
シエンター・フアン(カリフォルニア大学ロサンゼルス校アジア言語文化専攻博士課程学生)
パンダ

パンダ外交の威力は決して小さくない BABIN BERNARD-shutterstock

<パンダの貸与や引き上げは対中関係のバロメーターだ>

フランスのエマニュエル・マクロン大統領が12月上旬に中国を訪問したのは、今回で4度目の国賓訪問であった。旅程は、予想通りの形式的な行事から始まった。北京市の人民大会堂ではレッドカーペットで迎えられ、貿易、技術、ウクライナ問題に関する習近平(シー・チンピン)国家主席との高官協議が行われた。

しかし、この外交訪問を象徴する光景は、首都ではなく、1600キロ以上離れた四川省成都市で現れた。さらに、習自らが四川省を案内してマクロンをもてなすなど、形式張らずリラックスした「ノーネクタイ外交」が展開された。

【動画】マクロン大統領夫人とパンダ

この散策は極めて重要な意味を持っていた。北京以外の地で外国首脳を、非公式な観光という形でもてなすことは習にとっても初のことだ。その観光ルートには都江堰灌漑システム、中国代表の卓球チームの視察、成都ジャイアントパンダ繁育研究基地の訪問が含まれていた。

世界の関心は当然ながら関税、ウクライナ戦争、原子力エネルギーといった「ハード」な問題に注がれている。

しかし、近代中国の文化史を専門とする歴史家として筆者は、この非公式な観光という演出が、中国の外交戦略を読み解く上で極めて重要な手がかりとなると考える。中国は、古代の水利施設や卓球といった文化的要素を前面に押し出すことで、硬直する地政学的環境の中で、文化を用いた洗練された国家戦略を展開しようとしているのだ。

「ホーム外交」の相互作用

マクロンを成都市に招待したことは綿密に計画された外交的返礼だ。2024年4月、マクロンは親密さを高めるため、習をフランス・ピレネー山脈にある自らの別荘に招いた。

今回の訪問中、習は前回の会談に言及し、「昨年、あなたは私をオート・ピレネーのご自宅に招いてくれた。この訪問を通じて、中国への理解がさらに深まると信じている」と述べたとされる。

返礼としてマクロンを四川省へ案内したことは、事務的な関係から個人的な関係へと移行することの証だ。加えて、中国外交が「戦狼外交」と呼ばれる対立的・攻撃的な姿勢から、欧州主要国とより関係重視のアプローチへと舵を切りつつある兆しでもある。

中国はフランスを単なる貿易相手としてではなく、深い個人的関係を結ぶに値する国家と見なしているのだ。

特に、米中貿易摩擦が続く中で、中国は米主導の封じ込めに対抗する広範な戦略の一環として、EUをますます重要なパートナーと見なしている。

水を治めて国を治める

マクロンの文化視察のメインは、都江堰灌漑システムだ。紀元前3世紀に建設されたこの施設は、現在も稼働を続ける世界最古のダムを用いない水利プロジェクトであり、ユネスコの世界遺産にも登録されている。

都江堰はただの観光地に留まらず、中国の政治哲学を体現したものだ。現代のダムが水をせき止めるのに対し、都江堰は水の流れを分岐させて管理する。この方法は、道教の「無為自然」の理念を体現しており、「水を治めるは国を治めるに通ずる」という習の言葉にも通じる。

バランス、柔軟性、そして自然の力と争わずに共に働くという姿勢が、理想の統治の在り方だとマクロンに示したのだ。

協力関係は東西という硬直した対立軸によって制限されるべきではなく、封じ込められるべきでもない。貿易や気候変動対策、文化や教育の交流といった双方の利益に沿って、自然な流れの中で進むべきだ――。国際関係が緊張するなか、中国はフランスに対しこう語っているように見える。

卓球外交2.0

都江堰が古代の知恵を象徴していたとすれば、四川省体育館の視察は、外交を現代のエネルギッシュなスポーツの舞台へと引き戻すものであった。

スポーツの中でも、卓球は中国の外交史において神話的な地位を持つ。1970年代初頭の「ピンポン外交」は、1972年のニクソン大統領による歴史的訪中への道を開いた。歴史家ピート・ミルウッドの著書『Improbable Diplomats』(未邦訳)によれば、こうしたスポーツ交流は、政治的に安全かつ国民に受け入れられやすい形で、外交関係の大きな転換を示す役割を果たしたという。

2025年の国際卓球連盟(ITTF)混合チーム・ワールドカップの会場となるこの場所で、12月5日、マクロンは即席の卓球試合に参加した。フランス選手フェリックス・ルブランやプリティカ・パバデとペアを組み、中国の王楚欽(ワン・チューピン)や孫穎莎(スン・インシャー)と行った軽快なラリーは、中国のSNSで大きな話題となった。

現代の外交が往々にして台本通りで堅苦しくなりがちな中、このようなソフトな外交は、相手国を自国の国民にとって身近に感じさせる効果がある。さらに、指導者が難しい政治的譲歩に踏み切る際の、世論の支持を下支えする土壌にもなる。

中国ソフトパワーの象徴、ジャイアントパンダ

一方、首脳たちがラケットを手に親交を深める間、フランスのファーストレディ、ブリジット・マクロンは中国が誇るソフトパワーの象徴、ジャイアントパンダとの交流に臨んだ。

「パンダ外交」は1950年代から中国外交の柱の1つ。動物の貸与はその国の対中関係のバロメーターであり、貸与は友好の、引き上げは冷却の証だ。

ブリジット・マクロンは成都市の繁育研究基地で、中国から貸与された両親の下にフランスで生まれた「円夢(ユエンモン)」に会った。ユエンモンの名付け親でもある彼女は、2025年11月に両親と共に中国へ帰還する際、その手続きを支援した。

ブリジット・マクロンの訪問後、新たに2頭のパンダが2027年までにフランスへ送られるという協定が発表され、今回の首脳会談における具体的な成果のひとつとされた。

文化外交の限界

水利施設、卓球、パンダ。これらが意味するものとは何だろうか。

批判的な立場から見れば、現実政治の「鉄拳」を包み隠す「ビロードの手袋」にすぎないと切り捨てられる。確かに、卓球の親善試合は、EUが抱く中国政府による補助金への懸念を解決しないし、ウクライナ戦争に対する中国の姿勢との溝を埋めるわけでもない。

しかし、この文化的側面を軽視することは、中国の外交姿勢を見誤ることになる。中国にとって「友好的な雰囲気」は、重要な政治課題を前進させるための前提条件なのだから。

成都市での習とマクロンの会談は、中国のソフトパワー戦略が洗練された形へと進化しつつあることの証左だ。近年の攻撃的なレトリックから脱し、フランスのような欧州主要国との関係を温める方向へと移行する試みともいえる。

もちろん、文化が硬派の外交に取って代わることはできない。しかし、今回のマクロン訪中は、現在の中国では、政治的合意へ至る道がパンダ舎や卓球台を通っている可能性を示したといえる。

文化外交を続けるという中国の、都江堰での両首脳の別れ際に象徴的に表れていた。別れ際、習が冗談めかして「次はまた別の場所で会おう」と言い、マクロンが即座に「もちろん、ぜひ」と応じた。このやりとりは、文化外交が一度限りの演出ではなく、継続的な取り組みとして構想されていることの証といえる。


The Conversation

Xianda Huang, Ph.D. Student in Asian Languages and Cultures, University of California, Los Angeles

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


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